多崎礼 ...last update 2006.09.05  [上]に戻る

『煌夜祭』中央公論新社
  購入:2006/07/27 読了:2006/09/05 

 本書の冒頭に見開きで描かれている[十八諸島輪界図]は、私は最初、抽象化された模式的な図ではないか、と思っていました。

 ***

「十八諸島の世界を巡り、世界各地で話を集め、他の土地へと伝え歩く。それが我ら語り部の生業。冬至の夜、我らは島主の館に集い、夜を通じて話をする。それが煌夜祭−−年に一度の語り部の祭」
(中略)
「煌夜祭では、世界各地の出来事や先人達の貴重な智慧が、一夜にして語られる。死海に隔てられし十八諸島において、その物語は金に等しい。ゆえに島主は貴重な話、面白い話、役立つ話をした語り部に褒美を出す」
(P11)

 ***

 海で隔たれた十八の島々に生きる人々は、島主を支配者に戴き、中世のような階級社会を営んでいます。
 (たぶん)どの島々にも、蒸気塔と呼ばれるものが多数あり、ある島では武器を作り、ある島では海底を掘り、島々の間を、布袋に蒸気を詰めた蒸気船が空を飛んで行き交います。

 そして、ある年の冬至の日。
 廃墟になった島主屋敷を、二人の語り部が訪れ、そこで、互いの知る物語を、互いに向かって語り合います。

 物語が語られるに従って、十八諸島の風物・事物が、だんだんと明らかにされて行きます。
 第四話が終わった頃には深更で、その頃には、この世界の怪しさが露わになりつつあり、同時に、二人の語り部の仮面の中身についても、訝り始めていました。

 あとはもう、一気呵成に読み進んで、あぁやっぱり、と、ええっ、と、納得と驚きが三割七割くらいの結末へと到ったのでした。

 仄めかされた世界の謎の大半は明示されずに語りは終わりましたが、人々の物語は過不足なく語り尽くされているので、充たされた気持ちで本を閉じることができました。

 読了後、改めて冒頭の部分に目を通すと、そこに隠されていた過去と情動と真実が思い返されて、ため息をついたりできます(笑)。


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