宮村優子 ...last update 2008.12.16  [上]に戻る

  『電脳コイル 1』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge/ / / / / /

『電脳コイル 1』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2007/04/19 読了:2007/04/30 

 ※本作は、磯 光雄による原作をもとに、著者宮村優子が独自の解釈を加えて小説として書き下ろしたもので、磯 光雄監督・脚本のTVアニメーション『電脳コイル』とは、世界観・キャラクターその他設定の異なる別作品として成立したものです。(おくつけの記載より)

 ほぼ全員がメガネッ子。

 読み出す前は、「仲良し少年少女たちの電脳アドベンチャー」(たとえば『デジモン』みたいな)かな、と思っていたのですが、違ってました。
 …三原 順『はみだしっ子』白泉社 の登場人物たちの印象が少しだけ、この小説の主要な登場人物の印象に近しいかも、を、この文章を推敲している時に思い付きました。

 [自分・個人・わたし]の、未熟・限度・我執/目線の高度・視界の広さ・視野の狭さ、を容赦なく突き付ける、その熱さと鋭利さに魅了されました。

 ランドセル並みにデファクト・スタンダードな存在らしい《メガネ》と、それに象徴される、超・硬/濃度な[子供たちだけの電脳世界]。その異質・いびつ・異様さ。
 中でも一番の不満・疑問・謎は、電脳世界と現実世界の境界の有り様、です。
 ただ、そんな背景設定に関する謎/不満/疑問/不安は、語り口の激しさに、読んでいる間は三割ほど軽減されていたように感じてます。

 ふと。
 京子は、キョウコと記されることはなく、京子のままでしょうか。


『電脳コイル 2』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2007/07/19 読了:2007/07/19 

 異様な・不思議な・危険な・魅惑的な、他にはない電脳環境を持つ場所、大黒市。
 メタバグが生成され、キラバグを内包するというイリーガルが潜伏し、ミチコさんという都市伝説が流布する、そこ。

 イサコは兄(?)を、タマコは過去の清算(?)を、ハラケンは死んだ少女の死の原因を、それぞれ求めていて。
 ヤサコにも同様な「傷」があり…その傷を持つ故に、イサコに魅了(?)されつつあって。

 …霧、万能の「力」、過去の事件との因縁。KONAMIのゲーム『SILENT HILL』を連想する符合ですが(^^;。

 アニメ版との大きな違いは、4423がいないこと…今のところは。タマコとハラケンの関係も、これも今のところは、アニメ版よりも「微妙に遠い」感じ、です。

 失くしたものを取り戻すことに執着しそうなイサコやハラケンが、どうなるのか不安です。


 2007.07.23 記

 4423…P8(本文の、最初のページ)に、この「名前」と同定できる名前の持ち主の存在が、あっけらかんと記されてました!(;´Д`) アニメ版と「同じ」か否かは、不明ですが。


『電脳コイル 3』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2007/10/17 読了:2007/07/18 

 廃工場で、アニメ版で個人的に不満だった、ヤサコの持つ「重要な情報」が他の登場人物に明かされない、という点が解消されていて、胸のつかえが取れた気分です(笑)。

 小説版では、イサコとヤサコとハラケンは、磁石の同じ極同士のように反発しています。
 イサコの立ち位置こそアニメ版と変わりませんが、ヤサコやハラケンは、アニメ版とは違っています。
 今後、どうなるのか見当もつかなくて、おそろしくてドキドキワクワクです(爆)。


 原川研一は、考える。

 ***(以下、P54から引用)

 小此木優子と天沢勇子。
 あのふたりは似ている。
 まったく正反対の性質の裏に、ものすごく近しいものを潜ませている。そして隠されたふたりの本質は、ときどき他者に刃となって向けられる。

 ***(以上、P54から引用)


 ダイチが、ハラケンに言う。
 イサコとハラケンは似ている、と(P233)。

 ***(以下、P233から引用)

「ひょっとしてあいつも、なくしたものをとりもどすために[だれかと取引してる]んじゃね?」

 ***(以上、P233から引用/[]で囲んだ箇所は、原文では傍点が打たれている)


 ヤサコは自分の気持ちに気付く?

 ***(以下、P244から引用)

(前略)ハラケンにわたしが言ったことは、だからきっと、すべてわたし自身のことなのだ。
「天沢さんをやっつけたい」
口に出してつぶやいてみた。

 ***(以上、P244から引用)


 そして、大黒市の「電脳インフラ」の「謎」は、未だ五里霧中な感じです。

 ***(以下、P17から引用)

 《メガネ》と呼ばれるわたしたち子ども用の装着可能(ウェラブル)コンピューターには、有効期限がある。小学校を卒業して最初の誕生日、すなわち13歳になるその日の近づくと、《メガネ》の機能はだんだん衰えて、そしてある日突然ぷつんと切れてしまう。

 ***(以上、P17から引用)

 なんという不可思議な条件。わたしはこの「謎」の答えが知りたいです。


『電脳コイル 4』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2008/01/23 読了:2008/02/29 

 おねがい! マリリンマリーン!!

 転ばせてあげて?

 展開は、ほぼTV版を踏襲した、夏休みの学校での合宿・決闘・怪談・ミチコさん。
 違うのは視点・語り手。ヤサコ、イサコ、ハラケン、オバちゃんの各々の、より個人的な視線・思考、で。

 出現した「あっち」のイメージは、その前の怪談で、みんなが情報を共有していたが故の表象だったのかも、と。

 大人たち…子供たちの親たちとマイコ先生は、今回けっこうツーカーでしたが、何か共通体験…たとえば『おねがい! マリリンマリーン!!』的な?…があったりするのでしょうか。


『電脳コイル 5』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2008/04/17 読了:2008/05/08 

 前巻の感想で書いた「大人たちの共通体験」が、この巻で、なんとも嫌な感じで顕在化しそうな展開になっていて、ちょっと愕然、です。

 物語の状況は、子供たちの視界・視野を超えつつあるように思えます。幼なじみ・クラスメイト・仲良しグループ・部活動という「身内の間の交流/対抗」から、物語の大舞台である大黒市の全体を巻き込むような規模へと。
 子供たちは、否応なしに意識の拡大・成長・変容を求められる、のでしょう。そのことへの不安と期待で、以下次巻、は待ち遠し過ぎです。


『電脳コイル 6』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2008/07/19 読了:2008/07/30 

 [電脳コイル]の顕現(?)の始まり?

 メガマス社の「おじさん」の登場。
 原川玉子の「立場」の悪化。
 ヤサコたちの間の関係の変化。

 親たちと子供たちの隔絶は、悪化こそしなかったものの、解消されることもなく、存在して、以下次巻な感じで。
 加えて、子供たちの「世界」での断絶・対立が顕在化されて。

 子供たちが、対峙する・得る・生む・与えられる、様々な問題・悩み・痛み・苦しみ・苛立ち・悲しみに、折れないことを祈るだけです。


『電脳コイル 7』徳間書店 TOKUMA NOVELS Edge
   購入:2008/12/02 読了:2008/12/16 

 メガネの子供たちの世界が、未知の変容に晒される?

 アマサワユウコが「みんな」の頭上に「印/偶像/贄」として掲げられてゆく一連の「イベント」。それを傍観する一般人だったはずの、ダイチやフミエの知り合いという位置づけだったはずの、大黒小の一生徒が、新たな/別の「陰謀者」の顔を露にした今回は、このコイル世界の物語が、独自の「未来/結末」に向かって踏み出した証、でしょうか。
 メガネの謎、の奥のコイルの謎、の先の大黒市の謎、みたいな?
 いっときの高揚・優越・満足に、全能無敵の幻想を重ねて。でも、子供・生徒・個人である限界・制約・非力に縛られ・抑えられ・邪魔されて。
 蹉跌と超克の繰り返しの果てに、どんな成長があるのか、期待したいのです。


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