店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2005.8

 

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8月2日(火) 曇のち大雨

 日の暮れ方から降り出した雨が、みるまに勢いを増して豪雨に。どこの洗車コーナーに迷い込んじまったかってな量の水が叩きつけ足を浸して流れ、真っ暗な天は時折一面を輝かせて重い音を轟かすというものすごさ。早々に勝ち目なしと見てタクシーで帰宅したが、今度は室内にこもった湿気まじりの温い空気に辟易するハメになった。
 とりあえず濡れた衣類をひっぺがし、やれやれと一息ついたら次は猫がタカってくる。何故だ。毛皮をみっしり着込んでるくせに、暑くないのか?いや、足裏がしっとり湿っているところをみれば彼らだってこの気温は不快な筈なのに。もしや嫌がらせですか?自爆テロですか?

 とこう涙目になりつつ『シティ・オブ・ボーンズ(マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳)』を読了。
 偶然に発見された20年前の人骨。それが子供であること、また生前に起きた無残な出来事を知って捜査にのめりこむ主人公ハリー・ボッシュ刑事と同僚たち。しかし、足と頭脳をフルに使い科学的分析の支援を得てさえ、時の重みの前に捜査は遅々として進まない。安易な解決を選ぼうとする上層部との軋轢に加え、私生活でもパトロール警官との恋愛という火種を抱えながら事件を追う彼らの努力が実るときは来るのか?というメインテーマに、まずはすとんと引き込まれた。こつこつと積み重ねられる調査の過程が、実に読ませるのだ。派手さやスピード感は無いのだけれど、静かに語りかけてくる。地味で重い、古きよきハードボイルド好きには堪えられない味わいだ。
 また人物造形がいい。主人公の生い立ちや過去がしっかり描かれていながら、それを前面に押し出し「自分語り」をしないことで、却って興味を惹かせるテクはお見事。そもそも実はヒエロニムスという名前、「あの」画家と同じというところで陰鬱なイメージを植え付けつつ、作中ではその特異点をさらっと流してしまうあたり、芸達者だなあ。もちろん他のキャラクターの書き込みも要所を押えてあって想像を容易にしてくれる。
 悔しいのは、本作がシリーズ半ばの1本で、しかも他作品が出版社をまたいで散らばっていること。これからコチトラが地道な追跡行をせにゃならんのだ。まずは扶桑社ミステリーで傑作の誉れも高い『ナイトホークス』から手をつけてみるか。


8月4日(木) 曇のち晴

 じっとり湿った夏の宵、かる〜く怪談でもと『ふりむいてはいけない(平山夢明/著、ハルキ・ホラー文庫)』を一読。
 全然涼しくなりません、これ。
 話運びもお約束なら語り口もグダグダ。どれも似たようなエピソードの間に挟んだ虚仮脅しの合成写真でサプライズを狙ってるものの、作りがお粗末で昭和の頃の特撮みたい、もう笑うしか。『超 こわい話』シリーズの送り手とはとても思えない質の低さだ。
 いったいどういうターゲットに向けて書いたのかなと、改めて本を引っ繰り返してみたら「Popteen」誌の連載だったそうな。な〜んだ、ローティーンのお嬢ちゃんたち相手ですか。それじゃ生ぬるくっても仕方ないなあ…。
 なーんて思ってたんじゃないでしょうな平山さん。
 わざわざレベルを落とした文字どおりの子供騙しじゃ、本物の子供だって楽しめないものじゃなかろうか。僕らがガキの頃だって、パターン化した怪談なんぞで背筋の凍る思いはできなかったもの、ナメてかかっちゃいけません。ぜひ渾身の力をこめて、後々まで思い出すほどビビらせてやってくださいな。それがいずれは楽しい記憶になって、こういう怪談バカが育つんだから。<ダメじゃん


8月6日(土) 晴

 広島・原爆記念日。
 昨夜も特番が組まれてたが、そこで当時開発に携わってたという爺さん学者が、まだ幼子であったろう被爆者に向かって「リメンバー・パールハーバー。ワタシに謝れ」と言うたとかで、この夏一番の外気温32℃に加熱されつつ観ていた相方がやたらヒートアップしていた。まあ、お米の国が戦争相手国の非戦闘員まで全員悪党と決め込んで罵り無差別攻撃するスタンスなのは、朝鮮でもベトナムでもアフガンでもイラクでもよーく見えてること、今さら怒りを抱くも空しいじゃねえかねこまよ。連中は故意にそうすることで雑多な人種の寄り合いを国家として纏める手段としてるのだろうし。そもそもその爺さんにしても、投下の様子をチェックしに飛行機に乗せられたってこたぁ実は使い捨てOKの下っ端だったんじゃねえの?と斜め読みして蔑んでみたりする僕は、実は彼女よりムカついているのかもしれませんが。

 で、朝になって新聞を読んだら『夕凪の街 桜の国(こうの史代/著、双葉社)』の著者インタビューが掲載されていた。まあ時節柄ということもあろう、最下段の広告も同書でしっかり占められている。ただ、サブタイトルにこの本のことを「告発」と書いてるのは何よ、と再度ムカムカ。
 どこを読んだんだ、この記者。これは告発してないところが重いんだ。原爆を落とした連中にも戦争を始めた馬鹿どもにも何も問わず責めず罵らず、それを受けた無辜の身が傷つき消えてゆくこと、同じ境遇の者を助けられなかったこと、また互いにさえ差別的な言葉を投げずにいられなくなってしまうこと、そんなことどもを凄惨な描写も激した台詞も無く「悲しい」という言葉にさえせずに綴っているからこその名作だというのに。
 とてもデリケートな問題、というより丁寧に扱わなきゃいけない人々にまつわる物語なんだから、言葉をも密に選ぶべきじゃあなかろうか。とかく人権問題など喧しく騒ぎ立てる新聞のクセに、なっちょらんですよ全く。
 ちなみにこの本、この春に相方に薦められて読んだのだが、再読する度だだ泣きしちまい、未だにまとまった感想が書けずにいる。そういう本です、何も言わず読んでください是非。


8月7日(日) 曇時々晴

 かねて待ちかねた千歳基地は二空団の航空祭。年々重くなる足を励まして、早朝に家を出、基地を横目に空港までシャトルバスに乗る。いつものようにタクシーで折り返しつつ、今年は楽に入れそうだな〜と思っていたが、8時半の開場を前に車列がはや重なって渋滞しつつあるのを目にして愕然。なんか毎年凄くなってるよなあ…と思いつつ、いざ入場してみたら。
 もう人波で飛行機が見えません。
 どーなってんだろね、これは。いや自分だって沸いて出たクチだから偉そうに言えないけど、20年ばかり昔は隊員の家族と飛行機ヲタしかいなかったことを思うと不思議な気が。「抜かずの剣」を楽しく見物する人が増え、屋台なんかもみっしり並ぶ、本当に「お祭」になったんだなと思えば嬉しい気もしないじゃないが。
 ただ、赤ん坊と犬を連れた人がやたらに多いのは流石にどうかと思った。日に灼けたコンクリが返す熱をモロに受ける位置で、口を利けない生き物を連れまわさないでいただきたい。普通の祭の雑踏に層倍する苛烈な環境なんですぜ?ちょっと裸足で立ってみて、想像してみてくださいな親御さん飼い主さん。

 さてと会場をうろつくものの、展示機は空自・陸自・保安庁ともにほぼ決まりモノ、毎年拝んでいるので挨拶程度に通り過ぎるのみ。米軍機もホーネットとファイティングファルコンと顔馴染レベルだし、やはり湾岸の余波はまだ大きい。戦争なんかやめて、もっと色々遊びに来てくれんかなあ。いや、向こうの中の人もやめたいんじゃないかとは思うけど。
 かくて前半の飛行展示を傍目に、隊員有志によるコンサート会場や警備犬の実演を見物する。特に後者は犬の個性や得手不得手(好き嫌い?)も相まって非常に面白かった。周囲に異様なテンションの人だかり、また猛暑の中という苛酷な環境で頑張ってくれたワンコたちに敬礼。
 祭の花形、ブルーインパルスの曲技飛行は、あいにく雲がかかってイマイチだった。飛行自体は見事だったのだけど、T-4に機種変更してからこっちスモークが白なので、背景がブルーでないとどうにも映えないのだ。カラースモーク復活希望!

 後半は客席間近に停められた政府専用機(ボーイング747)前に腰を据える。
 
 中が見たいねえと言い交わしつつ、交代で周囲をウロウロ。まあ、それは望み得べくもないので、ジャンボのすぐ鼻先に座れるのも珍しい経験とねこまの携帯カメラでパチパチ。お?人が生えた!
 
 なーんて馬鹿を言いながら近くの陸自の展示も一巡りし、スティンガーの後継機・国産の91式携帯SAM(SAM-2)を拝み、全長147cm、重量も17kgと軽量化されているのに拍手。これならソリッド・スネークに投げつけられても平気だぞ、雷電!<平気なワケありませんて

 かくて祭は終り、声を嗄らして退場のアナウンスをするお嬢さんには悪いけれど、居残りを決め込んで飛び去る展示機たちに帽子を振る。すまんお嬢さん、こうして有り難うよと見送りしないと、なにか気分が落ち着かないのだ。別れの挨拶に翼を振る飛行機、あろうことかボディを振って90度仰角俯角やってくれた戦闘ヘリ、みんなみんな元気でまた来年会おうな!

 それにしても、こうして省みると、なんだか妙な展示ばかり眺めて歩いてるなあ。アレだな、猫好きが血統書モノの美しさに目を引かれていた時期を過ぎ、なんとも形容しようの無いぐじゃぐじゃな毛並みのヤツを珍重するようなモンか?

 帰宅後、新PCのセットアップ開始。とりあえずメインマシンは置いといて、当座の使用に耐えるノーパソを。
 モノは古いLavie。Cel300、メモリは256と現行の汎用機にも程遠いレベルだが、メールとテキストだけをいじるには何の不自由も無い。つか、これまで使っていたLatitude(通称:らっちぃ)のPen130にメモリ40と比べると別世界だ。ちなみに、らっちぃのヤツもHDDエラーで動かなくなったワケなんだが…やっぱ夏向きに何かの祟りと思い決めて、お祓いの真似事でもせにゃダメかねえ。


8月15日(月) 晴

 ビジーを乗り切り、よーやっと辿り着いた盆休み。しかし初日が休日出勤になっちまったもんだから、通常の休みに毛が生えた程度の有り難味しか無い。まとまった用事を片付けるのも難しいから「やっと三日貰えたのが夏休み〜♪」と中島みゆきを微妙にアレンジしつつ、酷暑の中で昼間から麦ジュースなど啜ってみたりするのみ。うう、冷房効いてる会社のほうが居心地いいかも。出社しちゃおかな〜。でも行ったらきっと仕事しちゃうんだよな〜。<休みたいんか本当に

 とりあえず、溜まっていた本の一気読み。
 『プ〜ねこ(北道正幸/著、講談社)』
 くっきりした絵柄も好みだし表紙の4コマがちょいと面白いと買ってみたが、中身にそれより笑えるネタがほとんど無いという看板倒れ本。別に猫でなくてもいいじゃん、という話ばかりだ。しかも中盤が全然違う系統のストーリーもの、ちょいエロありで占められてるもんだから、勧める相手も選んでしまう。どういう客層相手に描いてるのか知らないが、路線統一したほうがいいかと。
 『月館の殺人 上(綾辻行人&佐々木倫子/著、小学館)』
 小説家氏のほうには全く期待ができなくなっちまっており、漫画家氏も前作が今ひとつ低調で「そろそろ息切れしてきたのかな?」と危惧してたのだけど、その二人のコラボは予想外の面白さだった。見知らぬ祖父に会いに行く孤独な娘、雪の中を往く汽車という「走る密室」、舞台を彩るは怪しげな登場人物たち…と書くとありがちながら古典派には興味津々の設定なのに、それがことごとく一本はずれた描写になっていて息が切れるほど笑えるものになっている。鉄ヲタというにもほどがある乗客の行動、電車に一度も乗ったことのない娘のボケっぷり、実は構成されてなさそうな密室のすっ呆けた乗員たちと、とにかく可笑しくて、発生した殺人事件さえマトモに取れない。イコールこの先の展開が読めないってことでもあり、期待がもてるってことでもある。ただ、後半はまさに今連載中なんで、コミックス派の僕がそれを読むのは年末頃になるのだろうが。
 『ナイトホークス 上・下(マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳、扶桑社)』『ブラック・アイス(同上)』
 いずれもヒエロニムス・ボッシュ刑事を主人公とした、一級の警察小説&ハードボイルド。今月2日に最新作を読んですとーんとハマっちまい、一気に追跡してるのだが、とにかく面白い。地道かつリアルな捜査、陽光あふれる土地の陰鬱な事件、一種の必要悪ながら役人根性に蝕まれ職務の本質を忘れた警察組織、そこに属しながら一匹狼にならざるを得ない主人公の信念、それゆえに取ってしまう横紙破りの行動と連なるファクターにページを繰るごとに引き込まれるような心地する。どの作品でも謎の本質が結構古典的だったりするのも興味深く、適度に頭を捻らせてくれるのも捨てがたい愉しみだ。休み明け前に続きを買って、また通勤の友を用意しなくては。


8月18日(木) 晴

 盆を過ぎて急に朝晩の風が涼しくなってきた。しかし、目にはさやかに見えねども、ですなぁと長閑らしく呟くにはまだまだ陽射しが強烈である。今朝なんぞ、ここ数年耳にしなかった蝉の声が大家さんの庭から響いてきた。ジーーーーーーーと長く引っ張るこの音はエゾゼミだろうかと脳の奥底の知識を発掘しつつ、効果音があると暑さが倍増するもんだと嘆息。このひと時のために生まれた君よ、せめて相手のいそうなトコへ移動してくれ給え。

 『封印作品の謎(安藤健二/著、太田出版)』を読む。
 お上から発禁処分を食らったわけでもないのに欠番とされ、製作元から抹消された作品。新たなファンが必死でコンプしようとしマニアはお宝映像を自慢しリアルタイムで観た世代は知ったかぶりをする、そういうモノどもが何故生まれ何故生みの親の手で闇に葬られるに至ったかのルポ。揣摩憶測をたくましゅうするでなく、関係者に端からインタビューして歩き、その「証言」を時系列順の出来事とともに並べてみせるスタイルはすっきりと読み易く、また受け手に自ずと考えさせる構成になっている。
 ネタが大好きな特撮作品(それに『ブラック・ジャック』!)ということもあり、またどの作品も子供時代に一度は目にしているので思い入れも一入。「ひばく星人」の出所を大伴昌司に遡ったあたりは思わぬ取り合わせにわくわくするものさえあった。
 ただ、著者のスタンスにも何かバイアスめいたものが生じる最終章は、正直言って不要だったのではと思う。製作会社が(多くは)事勿れ主義で封印し、確たる理由を示さずに抹消した作品群と、これは明らかに違うケースだろう。
 またその中で、かつて自分がかかわった件についてだけは一方向からの視点に固まっているのもどうにも苦々しいものがある。酒鬼薔薇の写真公開時「ネットの掲示板は圧力によって規制された情報を交換する解放区だったはず」というのは思い込みに過ぎない。往事、賛意をもって見ていた僕でさえ、ウロつく先々で様々の意見を目にした記憶がある。確かにその頃に比べてネット人口は増え、実社会との差異は縮まっているけれど、以前だって別天地だったワケじゃない。著者が現状の「ネット社会」なるものに失望したかを愚痴めいて語るとき、メディアの入手方法をWinnyに頼りなにかというとネットを引き合いに出す前半もまた色褪せたものになる気がする。次に同種の企画をものする時は、ぜひ一貫した形でなされんことを。


8月19日(金) 曇時々雨

 深夜のTVで『アウシュヴィッツ』を観る。戦争のもたらした最悪の面「人類の負の遺産」として保存された、知らぬ者の無い施設について、イギリスはBBCとアメリカのプロダクションが共同制作した番組だ。
 4夜連続で観てきたが、残された証拠と関係者の証言、それに再現ドラマとCGで再構築してみせた施設の情景のいずれもが、とにかく重く胸に痛い。国家が保身のためにいかに冷酷になれるか、人が欲望のためにどれほど醜くなれるかは蓄積した知識もあって想像しうるものだったのだけど、何にもまして衝撃的だったのは未曾有の殺戮のさなかに居てなお、それに染まらない人がいた事だった。
 たとえばそれは、殺された人々の遺品の仕分け作業をあてがわれたユダヤ女性に「あなたが好きだ」とメモを渡したSSの青年。権力をもって彼女を自分のものにしようと思えば容易かったろうに彼はそうせず、立場を利してしたことといえば彼女の姉をガス室から救い、同じ場所へ配属したことだったという。もちろん、彼と彼女の間に生々しい関係が無かったとは言えないし、死者から剥いだものを整理する仕事の上に築かれたと思えばおぞましい感情かもしれない、しかし、それはやはり不思議なほど日常的な「恋」の形をしている。
 自分の親の名前さえ言えない幼子が詰め込まれた貨車、焼却すらしきれず残された屍骸。山と積まれた遺留品。取れるものは金歯に至るまで毟り取り、その結果を勘定していた男。ただ座る場所を取られたからと人の上に座って殺す男。そんな世界は「正気」の者にとって、どれほど耐えがたいものだったろう。
 昔読んだ『おおかみの眉毛』という童話をふと思い出しつつ、過去の人に合掌。世界はちっとも良くなっていませんと報告するしかない時代の子として。


8月21日(日) 雨

 朝から空模様もグズグズなら、日頃の疲れで人間もグダグダ。動く気力が無いまま、終日カウチポテト族(古っ)として過ごす。ついては贔屓番組の感想など。

 『仮面ライダー響鬼』
 主人公の「中学生日記(いや高校生なんだけどね)」にまたちょいとした波乱が起き、いささか深刻な顔つきになっているところ。対する鬼の皆さんは、新たな敵の出現に苦戦中。敵である「姫」「童子」「傀儡(白黒)」の非人間ぶりも際立ちさらに大モトらしい存在も現れて、なかなか賑やかな夏の終りである。
 この点賛否両論はあるようだけど、仕事でバケモノ退治をしている鬼の面々の肩から力の抜けきった日常と、いざ戦いに臨むアクションシーンの対比が、僕には結構面白い。かれらのスタンスって、刑事とか探偵とか傭兵とかセキュリティサービスに一脈通じるドライさがあって好きなんだよな。コミックでいうと『なぁばすぶれいくだうん』とか、そのへん。まあ、特撮ヒーローのカテゴリからはズレ気味だし、どう鍛えたら変身できるんじゃ!というツッコミはさておくとして。
 あとはリアルで背が伸びて顔つきの変わってきた主人公がドラマ中にどんな成長を遂げるのか、そっちがなかなか見えてこないのが難点だと思う。娘さんたちはずんずん綺麗になってるのだ、君も何とかしろ、少年!

 『CSI:科学捜査班』
 ベッドから連れ出され、死体で見つかった赤ん坊。現場に残る疑わしい状況、態度の不審な長兄、外部から恨みをもたれているらしい父親、不倫相手の登場、母親の過去、マスコミへのリーク。誘拐か?虐待か?疑惑の中でただ「証拠」のみを拠り所に立つ捜査班メンバーの心中も揺れて、二転三転ぶりが見せる一話。オチは想像できるものだったけど、結末の描き方も巧みで見ごたえがあるものだった。
 今回に限らずこのシリーズ、メインキャラクターたちがいずれも完璧ではないところが非常に上手く描かれ、かつ話に活かされていると思う。被害者が女性だとやたら感情移入しフェミニズム(というか男性への攻撃)を繰り出してしまうサラ、ギャンブル好きで身を滅ぼしかけたウォリック、情の絡んだ話にはついほだされてしまうキャサリン、女性に甘く緻密さに欠けがちなニック。かれらを束ねるグリッソムにしてからが一種ヲタク気質で人間心理に疎い面があり、そのせいで殺人犯をみすみす逃したことさえある。しかしそれがまた魅力的でもあるし、チームとして補い合う過程を見せることでさらなる魅力となっている。その昔『ブラボー火星人』『スパイ大作戦』『追跡者(D・ジャンセンの、だモチロン!)』『宇宙大作戦』『謎の円盤UFO』『ナポレオン・ソロ』『ザ・マジシャン』『600万ドルの男』『スタスキー&ハッチ』『Dr.刑事クインシー』『刑事コジャック』『超人ハルク』『華麗な探偵ピート&マック』『エラリー・クイーン』等々などの「外国TV映画」にハマりこんだ頃を彷彿とするほど来週が楽しみだ。
 それにしても我ながらよく観てたもんだ。業の深いガキじゃったのう…と省みつつ、今も雑誌「テレビジョン・エイジ」があったら、絶対購読し続けてるんだろうな。


8月24日(水) 晴

 『恋するA・I探偵(ドナ・アンドリューズ/著、島村浩子/訳)』読了。
 鍛冶職人メグ・ラングスローを主人公にした「鳥(タイトルに登場するフラミンゴだのハゲタカだのがストーリーに絡みまくる)」シリーズと同じく抱腹絶倒モノと思って読むと期待外れ、スラップスティック要素はほとんど無い。しかし流石のアガサ賞、謎解きの楽しみは充実しているし、何よりヒロイン?のAIの思考(笑)錯誤が生き生きと描かれ成長物語として非常に面白い。
 知性をもったコンピュータやネットの海で生まれた生命ってのはオールドSFファンの夢だったけど、その理由や過程を活写している本作はとても嬉しい未来形だ。現実のPC事情も上手に織り込まれていて、リアリティもなかなかのものだし。前作のゲーム会社における過剰なまでのリアリズムといい、作者はソッチ業界のキャリアが長いのかな?
 脇を固める彼女の「友人たち」、特に頼れるおば…もといお姐さんのモードもいいキャラだ。ちょっと出来すぎの気はするけれど、頼れない方の面々がそこらのバランスは取ってくれてるし。
 ただ、終幕前のある出来事を考えると、実はこれって『デモン・シード』一歩手前になりかねない話なのではなかろうか。正直言って、それだけはやって欲しくなかったな。これからもっともっと人間を知ってゆくであろう、彼女自身のために。

 帰宅したら『ラビリンス 魔王の迷宮 コレクターズ・エディション 』が届いていた。待ってました!のDVD化、早くから予約しといたヤツだ。ジム・ヘンソンのデザインする混沌に彩られたゴブリンの世界、闇ざれた童話から抜け出してきたようなその住人たち。かれらを統べるはデヴィッド・ボウイ演じる魔王、そして挑む美少女を演じたジェニファー・コネリーの美しさ可愛さといったらもう!もうもう!
 …と、息切れするまでまくしたてちまう本作に、ヘンソン画のポストカードとか特典映像がついているのだから、これが買わずにいらりょうか。買いなさい。すぐ買いなさい。さあ買え。
 惜しむらくは、テーマ曲「アンダーグラウンド」のビデオクリップが収録されていないこと。いや、難しいのは分るけど、クリーチャーたちとボウイの織り成す「もうひとつのラビリンス」が楽しい1本だったのだ。昨今ネットで音楽を買うのは恒常化してるけど、ああいうものもライブラリ化して売ってはくれんものかねぇ。


8月25日(木) 晴

 昼飯どき、会社近くをぶらぶら歩いてたら、目の前に鳥が降ってきてぱっと羽根が散った。2羽の鳩がもつれあっている、喧嘩か?と思ったら、どうも片方が相手に突き立てた脚が太い、よく見ると体格も違う。ハヤブサじゃないか!うーむ、噂には聞いていたがこんな町中で見ようとは。
 と思ったのも束の間、鳩は死に物狂いで身を振りほどいて逃げてゆき、獲物を失ったハヤブサは電線に飛び上がったところを居合わせたカラスに威嚇され、猛スピードで逃げていった。ううむ、野生の王国って感じですな。アフリカだとこれがインパラとチーターとハイエナになるんでしょうが。


8月29日(月) 晴

 『ブラック・ハート 上/下(マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳)』読了。
 ヒエロニムス・ボッシュ刑事シリーズ第3弾、今回は半ば以上が法廷もの。彼の名を高からしめるとともに降格の原因となった「ドールメイカー」事件で射殺した犯人の遺族が無実を主張し彼を告訴するのだが、現場での対処方法はもとより個人の人格まで俎上に載せる裁判のさなか、新たな被害者が発見される。死んだ男は犯人ではなかったのか?しかも、捜査の進捗が相手側の弁護士にリークされ、内部に敵を抱えつつ己をも疑わねばならない苦境が息詰まる筆致で記されていて読み応えは充分だ。
 艱難まみれの過去から、いずれ喪うことを思って常に他人と距離を置きたがりつつ、それでも裏切りや離別に傷つかずにいられない主人公の屈折を始め、登場人物たちの明暗清濁あわせもつ姿が見事に描かれている。ことに、訴訟社会アメリカらしく重箱の隅をつつきあい判事の顔色を窺いながらバランスゲームを展開する様がいっそ滑稽な弁護士たちの、それでもかれらなりの真実や正義を求める言葉は所どころで感動的ですらある。
 そしてそれゆえに、二転三転する犯人探しの果ての皮肉な幕切れもまた哀切。アクション主体の前2作と比べても余韻は深いものがある。ハッピーエンド大好き人種ゆえの嬉しさも一部あるけれど…って、この先またあんなコトやこんなコトが降ってくるのを知っていては、素直に喜んでもいられないのだけれど。

 昨日の『仮面ライダー響鬼』をぐだ〜っと眺める。ごく直截的なコミュニケーションで主人公たちが語り合う、素直な少年ドラマになっている。シリーズものとしてはのんびり展開だけど、いろいろあって信頼が深まって…という状況でないと説教オヤジになりそうな話だから、まあ良しというところか。ただ、話はいいけど響鬼の台詞、エンディングの歌詞と丸かぶりなのはどうにかなりませんか。デジャビュまみれになっちまうんで、もちょっと言葉を選んだほうがいいと思うんだが。
 バトルシーンはスピード感もあって非常にかっこいい。やはり特殊部隊系の組織のようなコンビネーションプレイもイケてるし、どんどん増えてきた鬼の皆さんの会話も、個性が出てて楽しいし。しかし鋭鬼はダジャレ好きって、おっさんぽいなあ。いや他人のことは言えませんけどね。


8月30日(火) 晴

 『エマ 6(森薫/著、ビームコミックス)』『よつばと! 4(あずまきよひこ/著、電撃コミックス) 』『ローマ人の物語 17〜20(塩野七生/著、新潮文庫)』『ラスト・コヨーテ 上/下(マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳)』を抱えて帰宅。うーむ、相変わらずまとまりが無いのう。

 まずは『よつばと!』。どんどんリアルな子供像になってくよつばの言動が楽しい。そうなんだよ、思い込みでアヤシイ生き物を作り出すことが結構あるんだよ。あと聞きかじりだけで素のダメージを与え、最後に止めを刺してくれることも。む、なにか思い出してきたぞ…グッバイマイラブ(笑)
 しかし、なんだかんだ言って一番面白いのは、子供レベルの思考で大人の行動力をみせちまうジャンボじゃなかろーか。んで、こういう奴って意外とそこらに居たりするんだよな。ヲタ濃度高めの業界では石を投げるとよく当たりますので、お心当たりの向きはちょいと試してみてください。

 続いて『エマ』。何かやるだろうと思ってたらホントにやりゃーがりましたね親父&子爵様。以前「二人で新大陸へ逃避行なんて安直なオチにはならんでほしいなあ」とか言ってたらまさかの展開、正直裏をかかれた気分。ストレートに危害を加えない辺りが却って陰湿だけど、とにかく読み手としてはヒロインの身が無事であることを祈るのみ。ええ、このへん冒頭の『ゼンダ城の虜』読んでるお嬢ちゃんと同レベルっす。そこまで想定して描いてるとしたら、作者様はたいした策士だなぁ。
 とりあえず期待がもてるのは沈着冷静なヘル・メルダースと奥方様であろうか。無表情にラブラブ〜なお二方の、英国社交界へのシニカルな視線もあわせて楽しみなところである。エマ本人の希望の星については、残念ながら読者サイドとしてはあまり思い入れができない、つか不安なところではあるけれど。なにせラストシーンにはモニカ「お姉さま」も登場してたし、障害物を越えてくるだけで大事じゃないかと。いや、障害が無くてもいまいち頼りないか。つか、貴様のような奴にエマは勿体無いわ、この軟弱ボンボンが〜!<結句、私情に終わるのみ。



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