店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2006.7

 

 

 

 

 

 

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7月1日(土) 晴

 かねて、作家の魅力は短編でこそ発揮されると考えている。読み手の集中力を削がない限られた文字数の中でいかに情景を描き作品世界に引きずり込み意外な結末を突きつけ唸らせるか、その技量のほどを知るには最良と。つーか、そうやって脳髄に背負い投げをかまして貰うのが大好きなだけなんだが。
 あと、作者のキャリアが続くうち長編の作風が微妙に変わってしまっても、短編にはそれがあまり出ないこともある。例えばこの人、スティーヴン・キング。『IT』あたりからどうも好きになれない話運びが増えていたので、ようやく邦訳なった短編集『ドランのキャデラック(スティーヴン・キング/著、小尾芙佐・他/訳、文春文庫)』には、実のところ手を出すのを躊躇ったのだが…いや、買って良かったッス。
 その昔『トウモロコシ畑の子供たち』の頃の原色をブチ撒けたようなショッキングさは減じて「チャタリー・ティース」1作にとどまっているものの、甲羅を経て磨かれた文章力がじっくりじわじわ「語る」ことで別な味わいを出している。表題作の息詰まるような狂気の囁き、続く「争いが終わるとき」のなんともいえない哀感、いずれも読ませてくれる。
 作品の並べ方も緩急あっていい感じ、ことに吸血鬼アンソロジーで既読の「ナイト・フライヤー」と「ポプシー」が並んでいたのには思わず吹き出した。キング世界のアレは飛行機に乗って各地を転戦、家にあってはいいおじいちゃんなのか〜?と笑いながら読んで後書きに至ると、筆者みずから肯定してるからさらにおかしい。しかもどうやら一度はジーンズを身につけたこともあるそうな。いっそこのノリで、ブラッドベリの「一族」みたいなシリーズものを書いてみてはくれんかな。あ、もちろん短編集でお願いしたい。


7月3日(月) 晴

 『ダ・ヴィンチ・コード』を観る。
 映像としては文句なし。原作で描写された舞台、アイテム、加えて作中で語られる歴史上のシーンまでビジュアル化してあって、ドラマつきの歴史検証番組のように視覚を愉しませる仕上がりになっている。絵面だけなら満点といっていい。
 ただ、ストーリーの改変はどうにもいただけない。次々に現れるパズルを限られた時間内で解くのは難しい、またそれによって二転三転する疑惑の構図を語り尽くすのも無理と端折ったのは止むを得ない。けれど、あえて原作においては存在していなかった「敵」、まるで「悪の秘密結社」めいたそれを作る必要があったのだろうか。話を単純化して万人向けにし、かつセンセーショナルにする意図だろうけれど、原作どおり、誰も悪意を持っていなかった(どころか、黒幕に至るまでほぼ全員が己なりの正義と善意で行った)のに結果として血腥い悪事になってしまった悲劇として描いたほうが良かったのじゃなかろうか。歴史が常に一握りの人々のパワーゲームで作られてきたという陰謀史観は嫌いじゃないけれど、この物語にそれは似合わなかったと思う。つか、世界各国で起きたボイコットも受けずに済んだんじゃないか?
 終幕に用意された答えは、小説よりもご都合風味が抜けていて悪くない。欲をいえば「彼女」は赤毛のほうが好ましかった気がするが…まあ、それは趣味の範疇か。いや、僕だけじゃない、原作者はもちろん、ダシに使われたダ・ヴィンチの趣味でもあるんじゃないかな、ねぇ?<誰に言ってる


7月7日(金) 晴

 今日は七夕。…といっても当地では来月だったりするんだが、そんな天のロマンスにことよせ…たワケでもなく、全くのたまさかで占星術にまつわるアンソロジー『ホロスコープは死を招く(アン・ペリー/編著、山本やよい/訳、ヴィレッジブックス)』を読み終える。なに?星占いと織姫彦星とは関係ない?いやいやいや、人が勝手に意味をつけたという点では、伝説も占星術も一緒さね。己を語るはおこがましいが、こちとらそのテのことにはまるっきり信を置いておらん、「山羊座のA型は真面目で勤勉」というレッテルのおかげでヒジョ〜に迷惑してきたんだから。なに?努力してその通りになれば占星術信者のためにも自分のためにも良かった?やだよ面倒くせぇ。
 とまあ、天の定めに従わぬ懐疑主義者としての読み手はさておき、本書。編集がヴィクトリアン・ミステリ書きとしてその名も高きアン・ペリー女史なものだから単純にミステリと思い込んだのだが、残念これは謎解きという意味では該当しない、「風味」というか「香り」程度の短編小説集であった。
 がしかし、買って悔やんだかというとさにあらず。謎解きが無くても物語の行方は十分に意外性に富んでいたし、星の示しに振り回され或いは利用してゆく人間模様やキャラクター像はどれも筆の巧みを感じさせる、読んで楽しいものばかりだった。訳文が読みやすかった点もポイントが高く、誠にもってお買い得な1冊である。星占いの本なんかよりずっと面白いですぜお立会い。


7月14日(金) 晴

 昨日・今日と、どえらい好天。この春からの長雨に葉ばかり繁った草花には結構なことだが、気温が30度手前まで上がった時点でこちとらダウンである。早朝に会社へ駆け込み、深夜まで陽光を避ける…って、天気が悪くても同じようなパターンですけどね、はい。

 草花といえば、わが家の猫の額農園は順調に生い茂り、ことにズッキーニは毎日1〜2本収穫できるようになった。イコール日々消費しなくてはならんということなのだが、まあそれはさておき、若年の頃には植物を枯らしまくり「茶色の親指」の称号をほしいままにした身としてかなり嬉しい。ホビーに限らず生活全般に、また仕事にも言えることだけれど、やはり年を重ね経験値を溜め込んで手がけることというのは成功率も高く、余裕をもって楽しく感じられるものなのだな〜。
 ということで次はズッキーニのピクルスでも作ってみるか。早朝と深夜のみの農夫暮らしのどこで時間を取るか、それもまた面白い挑戦ではあるし。

 しかし僕の如きは重ねたところで所詮馬齢であり、また人に興味を持てないゆえにこちらのご婦人のように世を見通す眼力スキルは養えていない。
 『復讐の女神(アガサ・クリスティー/著、乾信一郎/訳、ハヤカワ文庫)』読了。
 事件そのものを探り出していくという筋立て、誰が敵か味方か分からない中でのスリリングな探査行という物語はサスペンスフルで強烈に面白い。また、幼いままで居ようとする青少年とか若年殺人犯についてのミス・マープルのコメントが、現代社会においてもそのまま適用できるのが苦笑いされたり。ついでにいうと内容には諸手を挙げて賛成です。いや、自分自身、こうして大人子供でいるワケですが。<ダメじゃん
 ただな〜。
 これ、新訳すべきだったな。なんだか中学校の教科書みたいな直訳調で、物語として愉しむには読み手の補完が必須だと思う。未読の方にはご留意をお勧めしたい。


7月17日(月) 曇時々雨

 今年の庭には蜘蛛が多い。巨大なオニグモのお嬢さん(みのもんた風)だけでも3匹、庭の周りに居を構えている。小さいものは数えるのも面倒なほど、中には件のお嬢さんたちの巣の端にちゃっかり間借りしてるヤツまで。食われたりしないのかね。それとも保存食用に見逃されてるのか?
 しかし、猫の額ながら菜園など作ってみると、前にも増して虫たちが面白い。何によらず、ちょっと注目してみると面白さや美しさが見えてくるものだけれど、このごろは加速度的に連中への接近&観察の度が進んでしまってる。今日なんざぁゲジ(←ムシ嫌いの人は絶対にクリックしないこと)をアップで見て、うっかり可愛いと思ってしまったものな。ほんと、つぶらででっかい目をしてていっそキュートなんですぜ?身体の構造は巧緻なメカっぽいのに、身繕いする仕草は柔軟で可愛いしさあ。これで分解するようなイキモノでなけりゃ、飼ってしまうかもしんない。
 いや、そんなコトしたら僕が外飼いにされますけどね、間違いなく。

 昨日今日と、午後に入って雷雨。
 外遊びができないので、やむなく書斎の整頓にかかる。相方は溜まったビデオ、こちとらはポスター担当。むぅ、なんだこの『サムライトルーパー』と「キャプテン翼」の束は。
 ねこま「ほほほほほ、若気の至りということね」
 困ったアニオタだな全く。
 ねこま「『うる星やつら』とか『戦国魔神ゴーショーグン』は私のじゃないし」
 ふ、認めたくないものだな以下略。
 ねこま「あと『テクノポリス21C』があるけど?」
 観たんだよ悪いかよ!それを言うならこっちの映画の束には『アトランティス七つの海底都市』があるんだからな!ムキー!
 と、バカネタで盛り上がりつつ、埃と湿気でダメになっているもの興味の無くなったものを処分してゆく。しかし映画関係はやっぱり捨てられないよなあ。特に『シベールの日曜日』なんかはもう、何があっても手放せない。相方のリアクションが怖いのでこっそりケースにしまいこんだけど…。
 ねこま「いや、別にロリヲタとか言わないけど。それより『ウルフェン』と『巨大蟻の帝国』の間にそれが挟まってるのはどうかと」
 なんか余計に事態が悪化してるような気はするね、うん。


7月20日(木) 晴のち曇時々雨

 相方が『ジェントルフィーダー』なるブツを買ってきた。プラスチック製の注射器みたいなもので、針があるべき部分が少し長くなっている。具合の悪い動物(我が家では主としてフン詰まりペルシャ猫)に薬や水気を与えるのに使うのだそうな。
 しかしアレだね、名前に反してあんまりジェントルじゃありませんよこれ。コイツでやること考えると『火刑法廷』とか『トルケマダ』とかのほうがピッタリ来ると思うんですが、どうでしょう。それで売れるかっつーとあまり確信は持てませんが。

 クリスティー三昧の日々を終えて気分一新、『神のはらわた(ブリジット・オベール/著、香川由利子/訳、ハヤカワ文庫)』を読む。うろつきまわる殺人鬼と被害者、追う警察とそのメンバーに憑依(おいおい)している別の殺人鬼(!)というトンデモ設定で繰り広げられる、いい感じにスラップスティックかつスプラッタなお話だ。このシチュエーションなのに適度にスリリングに事件が展開するあたり、ワザありでなかなか面白い。『死の仕立て屋』の続編なのだそうだけど、前を知らなくても十二分に楽しめた。『ジャクスンヴィルの闇』からこっちあまり当たりがなくて離れていた作者だけど、これを機会にまたお付き合いもいいかも知れない。現代への帰還の第一歩としてどうか、という気がしないでもないけれど。


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