店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2006.8

 

 

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

 

 

[ 銀鰻亭店内へ ]

[ 以前の日記 ]
2000  9 / 10 / 11 / 12
2001  1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12
2002  1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12
2003  1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12
2004  1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12
2005  1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12
2006  1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7



8月1日(火) 晴

 好天に恵まれまくった日が続く。とはいえ今のところ真夏日がまったく無いという、微妙にシーズンを外した空模様は気になるところ。もっとも本州方面はついこないだまで梅雨が明けぬどころか洪水にまで悩まされてたいるというのに、こちらでは猫の額菜園が干からびつつある程度なのだから文句を垂れるべきでは無いか。日本は縦長の国とはいえ、この両極端ぶりはさすがにどうか、八大竜王、何卒ご配慮くだされたく。

 ここしばらく、愛読コミックが新刊ラッシュ、しかも豊作続きでひじょーに嬉しい。
 『鋼の錬金術師 14(荒川弘/著、スクウェア・エニックス)』
 カバー裏、イカス!
 …じゃなくて、まず本編。急展開&新たな謎の提示が緻密な描写でで読ませる読ませる。前刊の予告で見えていたというのに、リンが選んだ行為の重さとその覚悟の深さは衝撃的かつ切ない。そして、軍部の面々の、圧倒的な力に対峙しようとする不退転の覚悟も同じくして、人ならぬものを驚かす「人の靭さ」を見せることもまた。
 しかし、能力から推すに「お父様」は丸ごと石なのか?国民全部を代償に、自分を変換しちまったのかね?人の情を持ち合わせぬ彼と、情愛こまやかな父であったホーエンハイムの関係も尽きせぬ疑問の源のひとつ、今後もどんどん予測を裏切っていただきたいものである。
 『百鬼夜行抄 8(今市子/著、朝日ソノラマ)』
 界を異とするものの行き交うところに生まれる、妖しく美しくときにコミカル(を通り越してスットコドッコイ)な物語集、今回はきっちり怪談テイストの話が多め。ことに叔父さんの見合いにまつわる一話では、ぞぞっとそそけ立つようなひとコマを見せてもらった。コミックでこういう感触は滅多に無いので嬉しい限り。こういうのって、久しくなかったな〜。山岸凉子の『怪談』、ささやななえこの『空は石の…』ときて、ぬまじりよしみの『ビハインド・ユー』という掌編の三作品が脳裏に焼きついているけれど、この絵面もそうなるか。
 話としては振袖にまつわる一編がミスディレクションの利いた展開つきで非常に好み。そもそも振袖と怪談ってのは、往古の振袖火事なんかを例に引くまでもなく一種様式美だしね。
 『ヘルシング 8(平野耕太/著、少年画報社)』
 従来の映画・小説の吸血鬼像からの撚り合わせ、今回は最も影響深く見えるF・コッポラ版風味。そういえばアレの「教授」もイイ按配にイカレてたな〜。
 ロンドン市民虐殺行が(殺し尽くして)終り、いよいよ三勢力の激突へ。とはいうものの主人公サイドは3人しか残ってないが、どうするのかね?と思っていたら…いや〜、そう来ましたか。あの目々連状態はこれの伏線だったワケですな。つか、犬とか馬とかも食ったの?あと女性は眼鏡っ娘しか見当たらないようですがそこらへんは…とかって瑣末な疑問はさておいて、それにしてもコレ、吸血鬼の不死性の理由としては上手い解釈だよな。
 死ねない者の懊悩と死すべき存在であることに耐えられなくなった者の悲哀に満ちた死闘のさなかに筆を置き、さて次巻が気になるところ。ところでヒゲ主人公のビジュアルがサー・カウラーにしか見えないあたり、作者の業が深いのかこちとらが病膏肓ということか。
 『宗像教授異考録 2&3(星野之宣/著、小学館)』
 歴史と伝承を豊かな想像でひもとくシリーズ、巻を重ねてなお盛ん。今回はちょっとネタが寂しい気がしないでもないけれど、前巻の七夕伝説は情感たっぷりな読み応えだったし、後者での神在月の物語は幻想風味が効いてて味わいぶかい。
 今回はまた女性陣が活躍。特にニューヒロイン・瀧嬢がイロイロとほほえましい。ところであの食べっぷりは一族の血筋ですか?つまりお姉様がたも…?
 『鉄腕バーディー 13
 過去へと遡る旅の果てに悲しい事実が…は、ありがちな手法かもしれないが、これが文字通り一身同体のつとむが目にした事、というのが今後の展開にどう影響するかが気がかりなところ。それにしてもシンドい過去を背負ってよくぞあそこまで立ち直ったなあバーディー。実のところ、自分でアレしちゃったんじゃないかと思ってたんだけど、それよかマシというものの、戦闘そのものを忌避したくなってもしょうがなかったぐらいじゃなかろうか。タフで明るい彼女を取り戻すべく支えてきたであろう教官ズの苦労たるや、並大抵ではなかったろうなあ。
 それにしても不穏なのは神祇官の皆様だ。ひょっとしたら最初っからあそこが黒幕なんじゃねえのかね、と疑わせつつ、次巻では怪しいオッサン(いや、ジイサンか片方は)の跳梁が再開しそうだ。お楽しみはこれからか?


8月10日(木) 晴

 先回の日記を書いた翌日から猛暑。真夏日が無いとか言った舌の根を干上がらせるべく刺客が送りこまれたのかっつーぐらいに日々是真夏、老猫の探す扉の向こうも夏ばかり。連日30℃超の熱波がこれでもかこれでもかえいえいっ!とばかり降り注ぎ、古の歌人の詠えるがごと人目も草も枯れぬと…いや待て、あれは冬の歌じゃないか。というような按配に脳もほどよく煮えあがっている。
 実のところ煮えてるのは熱波のせいだけではなく、おのれの体温によるところが大きい。熱波の訪れと同時に夏風邪をひき、日々バカの証明を繰り延べるうちにほどよい半熟となったものだ。ついでに体重もイイ感じで減少、このまま行くと秋にはミイラが完成しそうな按配である。「夏の終わりの即身仏」って、なんかメルヘンぽくねぇ?

 とまあ順調に脳の体積を減らしている中、相方の買ってきた雑誌で『ハチミツとクローバー(羽海野チカ)』の完結を読む。
 シリアスとギャグを織り交ぜ、重い現実とすっ飛んだアクションを見事融合させて連ねられてきた読み応えたっぷりな物語の幕切れとしては、いささかボリューム不足、かつ意外性に欠ける気がしないでもない。しかし、この話にとってはそれが相応しいのかな。ひとつの時間の終わりは全てをなかったことにするワケではなく、かれらが歩みだす道の先はまだまだ新しいドラマに満ちている筈なのだ、かつてその季節を過ごした大人たちのように作り出してゆくであろう新たな日々を思わせるだけで、ことさら大盛り上がりさせることでもない。
 いや〜、なにより彼女が(相手のことを考えて)ダメージなしにちゃんと食えるものを作ったという、その事実にしみじみと微笑まれちゃったんですけどね。この年齢になると青春様には甘くなるのかもしれませんが、ベタなオチでもやっぱり良かったです、これは。


8月14日(月) 晴

 春先から初夏にかけて雨が多かったせいか、今年はやけに虫が多い。生態系の成すところ当然ながら、蜘蛛のお嬢さんたちも健康この上なくお育ちあそばしている。で、その御座所というか客間というかも巨大なものがあり、我が家の近くには差し渡し1.5メートルほどのもあらわれた。もうちょっと頑張ればハンモックになりそうである。
 面白いことに、そんな彼女らの住まいを、時々別種の蜘蛛がうろついている。細い、糸くずを寄せ集めたような姿をしているので気付かれないらしい。ネットで調べるとイソウロウグモというやつがいるそうだが、これがそうなのか。世の中、それも身近なところにも、まだまだ面白い生き物がいるのぅ。

 上巻の感想を去年の8月15日に書いた『月館の殺人(佐々木倫子・綾辻行人/著、小学館)』を読む。実に面白い(しかも、幸か不幸か未知ではない)生き物が跋扈する、よくできたコメディであった。
 浮世離れしたヒロインと彼女を待ち受ける現実味のない物語の舞台、充満するゆる〜いギャグ、そしていささか旧いイメージの「ヲタク」それも特殊なカテゴリーに属する連中が5人も雁首そろえて話をかき回すときては、一歩間違うとスベりまくって読むに耐えないものになりかねない。しかし、そこに殺人事件という、これ以上ないほど生臭いものを加えてなお楽しく読ませてしまうあたり、佐々木倫子以外にこれは描けなかったろう。大ヒット作『動物のお医者さん』と同じく専門知識を上手に解説してくれるので、門外漢にもヲタの思い入れがよく理解できるというステキ…かどうか分からないオマケも残るし。
 しかし、これはオビにあるように鉄道ミステリでは断じて無い、というかミステリとしては成立していない。小説でこれを書いたら、間違いなく壁に叩きつけられるシロモノになったろう。そもそもトリックの根幹をなすかつての事件を描いた瞬間にネタ割れしかねないのだもの。おそらく原作者の名前からミステリを期待して読んだ人には非常に腹立たしいものになったのじゃなかろうか。これから読む方にはぜひ、奇天烈な生き物のオハナシとして読みかつ愉しむことをお勧めしたい。


8月18日(金) 雨

 半月以上ぶりのお湿りがきて、長く続いた風邪で荒れた喉に心地よい。まさに慈雨というヤツですな〜。ありがたやケロケロケロ。ぺたぺたぺた。<海へ帰れよインスマウス

 自己ツッコミ入れつつ、今日までに読んだ本。
 『いかしたバンドのいる街で(スティーヴン・キング/著、白石朗/他訳、文春文庫)』
 『ドランのキャデラック』に続く、短編集『NIGHTMARES & DREAMSCAPES』の2分冊目。今回は前にも増して既読作品が多かった(6作中4作 orz)ものだから、ちょっとばかり物足りない。そもそも表題作からしてそうだし、おまけにこのテの「いかれた地域への迷い込み」はキングのお家芸ではあるけど「トウモロコシ畑の子供たち」のほうが緊迫感に満ちてるし、他作家の良品も世に多いものだから…とか文句呟いてる間にどんどん味が薄くなっちまったと。
 そんな中で素直に楽しめたのは「自宅出産」。破滅の危機に瀕した世界に唯一残された人々…というと悲壮感にみちみちた物語になりそうなもんだけど、暢気で肝の据わった田舎者たちの言動はうっかりすると和み系、ハートウォームな法螺話に踏み込みかけてて微笑ましい。だいたい主人公にしてからが、ゾンビ化して帰ってきた者とのナマグサイ対決を経てなお表題について想いめぐらせてたりするわけで、全く不安感が無いのだ。まあ、それこそ既に狂気の領域かもしれないわけだが、それでもいいんじゃねーの幸せならば?と弁護したくなるあたり、ある意味ヒジョーな異色作かもしれない。

 『からくりサーカス 43(藤田和日郎/著、小学館)』
 後半にかかってから加速度的に説明文が増え、いっそ読むのも面倒になりつつも最終章までつきあってみたが、荒削りながらパワー溢れるキャラの行動で描ききったかつての力作『うしおととら』の劣化コピーで終わった印象。もとより主人公を3人にした時点で話の収束がしにくくなるのは自明だったが、どうにも読み手が集中できない、イコール、パワー不足な幕引きになっている。また、生きてられちゃマズかろうキャラクターを終盤近くに一掃したところ、最後の敵の病みきった心情を描ききらぬまま「主人公の姿勢(それも、いささか後付けな理由)」による感化だけで改心させてしまったところ、世界という重みを背負った筈の闘いを個人レベルの話に終始させて良しとしたところ、いずれも安直にしか思えない。この半分の巻数でなら良かった話かもしれないが。
 せっかく、記憶や感情の伝播を行える「命の水」というアイテムを二系統にしたのだから、それを使えば良かったのじゃなかろうか。もっともその対決は記憶の転送の時点でもう行われていたようなものだから、ペース配分を誤ったと惜しむべきなのかな。


8月20日(日) 晴

 『奇怪な果実(ジョン・コナリー/著、北澤和彦/訳、講談社文庫)』読了。
 深夜の湖畔で繰り広げられた、裏社会の男たちの殺し合い。
 ホームから脱走した老女の自殺。
 夫から逃れようとする、幼子を抱いた女。
 まったく関連を感じさせないこの3つの事件の只中に、心を食い尽くすほどの喪失感と奇怪な幻視に悩まされる探偵が立ったとき、遠く、彼の祖父の若かりし日に起きた連続殺人事件が目を覚ます……。
 舞台構成は申し分ない。筋立ても因果物めいてたりご都合だったりもするけれど、ドラマとしてツッコまずに楽しめる。またキャラクターも(少しくコミック系ながら)きっちり立っている。特に泥棒と殺し屋からなるゲイのカップルは、ありがち系のシニカルな台詞を吐いても不思議と様になるよう書き込まれて魅力的。
 訳さえいますこし滑らかだったら、もっと楽しめたんだろうなあ。
 なんつーか、全体に硬い。もともと散文的な感触の文章なのかもしれないけれど、逐語訳的にちまちまとぶつ切り状態で並べられた言葉には流れが感じられず、ノリよくストーリーを流すには無理があった。しかも訳語の幅が狭く「ここはそういう表現じゃないんじゃ?」と疑問を抱くことしばしば。そもそも冒頭近くのアップリケについてのジョークで「心臓」と訳された時点で、かの『ドクター・ノオ』の日本初訳(医者はいらない)を思い出してしまったものな。
 本作はシリーズ2作目で、主人公が現状に至った経緯を描いた1作目は既に上梓されてるのだが、訳者が同じということでいささか躊躇わされるものがある。本作で脳内補完の訓練を済ませた、ということで手を出してみるべきか…。


8月21日(月) 晴

 『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』クリア。
 ひさびさに発売日を待って買ったゲーム、しかも仕事に追われるままにプレイ開始まで1ヶ月近くを要したために期待が大きかったというのは否めない。だが、それにしても、だ。
 前2作を(もとよりジャンルの草分け『弟切草』や発展形の『街』も)しっかりみっちり遊びこんだ人間としては残念な出来としか。まさか、本当に前作の真相「だけ」とは思わなかったぜベイビー。
 あくまでも「2」で起きたメイン事件の穴埋めにのみ終始してるもんだから、結末のパターンが恐ろしく狭い。いつ・どこで・どのようにして死ぬか、或いは消化不良のままリタイアするか、というのが膨大なエンディングリストの大半を占めていて、そこから逸れる意外なオチはまるっきり無し。
 しかも、本筋である解決編をめでたく「完」とするための展開が、ミステリとはかけ離れた、いっそ噴飯もの。こういうのこそ別シナリオにすべきだったんじゃないのか?話がスッ飛びすぎてて「釜井たちの夜」や「リボンの田中さん」或いは「かま板」や「ダイイング・メッセージ氏」と同系統のアナザーストーリーに思えるのだが。つか、あのテの話はもちろん、後の闇をこわごわ振り返ってしまうような鬼気迫るネタと演出が1つも無いのはどういうこっちゃい。サウンドノベルってのは、音楽がだだら流れる中で選択肢を眺めるだけのものじゃなかった筈だが?
 また、せっかくザッピングという新趣向を盛り込んでキャラクター相互の選択で展開が変わる仕立てにしてはいるけれど、それが『街』のそれのように活きているとはとても言えない。同じ状況を他から見てる「だけ」にとどまって、却って手間を増やすばかり、推理は組みあがっているのにそれを入力できないフラストレーションときたら、スーファミで遊んだ1作目の比ではない。
 と、オールドファンの不満をつらつら並べてみたけれど、それじゃ一見さんが楽しく遊べるかっつーと、これまたそうも思えない。ここまでの話をともに経てきたキャラへの感情移入なしにプレイして楽しいものにはなってないのじゃなかろうかと。そのためならん、前作前々作の本筋のみを遊べるようにしてあるけれど、果たしてどれほど新規ユーザーを引き込めるものやら。いやそもそも「完」への筋道で夏美さんがアレな理由が分からないと、話に対する違和感が増すばかりではないのか?
 かくて文句を呟きつつやっと辿り着いたピンク…は(分岐がワンパターンだがバカさ加減を評して)良しとして、紺と金のしおりをようやくゲットしてもご褒美が貧しくてまた残念。紺で出現したシナリオは本編をやり込んでいれば想像のつくものでさのみ意外ではなく、水増し感を払拭してくれるものではなかった。金のほうはというと、「完」の直後に見てこそ感動もあろうと思うもの、雑多なオチの山の後で目にすると素直に喜ぶ気になれん。総じて作り手の自己満足と旧作ファンなら買うだろうという甘えが透けて見える、シリーズ幕引きにはとてもじゃないが役者不足なシロモノであった。口直しに1作目をプレイすべく、物置へスーファミを発掘しに行くべかな。<PS版でやれよ



翌月へ





[ 銀鰻亭店内へ ]


サーチ:
キーワード:
Amazon.co.jp のロゴ