店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

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10月2日(月) 晴

 ねこまと二人、街へ出る。服だの防寒用具だの買うつもりでぐーるぐる歩くものの、ふと気付くと適当なカフェに腰を落ち着けて戦利品に読みふけっていたり。おかしいな、いつ本屋に行ったのかな?(そらぞらしく)
 とりあえずその場で読んだのは『やさぐれぱんだ(山賊/著、アーティストハウスパブリッシャーズ)』と『ベルセルク 31(三浦建太郎/著、白泉社)』。ラインナップが妙なのはいつものコトなので置くとして、中身のほうはというと。

 『やさぐれぱんだ』は、淡々とオカシイ。いわゆるカワイイ系に外れたパンダというのはありがちなんだけど、それとヒト(作者)がぼそぼそとボケツッコミを続けるのを見ていると、和みとは2メートル半ぐらい外れたところで「にまあ」と笑みらしきものがこぼれてくる。
 ただ、本としてまとめるにはボリューム不足、お値ごろとは思えないような。茫洋感を楽しむイコール後に残るような強烈なものも無いってことで、長く保存する気にはいまいちなれなかった。

 さて後者『ベルセルク』、久々に血みどろな戦闘の連続…なんだが、前半の相手が量産型のうえ人型大量破壊兵器な魔女っ娘の活躍が大きく、主人公の見せ場は頭脳戦と仲間との連携に比重が置かれている。キャラの変化を感じつつ是とするか否とするか、好みの分かれるところだろう。
 あと今回、中盤の敵を含めてギャグ系のノリになってるのも然り。メイン担当者のパックやイシドロ、イバレラの他にファルネーゼの兄貴(すまん、名前を覚える気が無い)とかが増えてるのも原因なんだろうが、大波をひっかぶる一同から素早く身をかわすセルピコとか、画面の端々が妙に陽気である。個人的にはこういうの好きなんだが、違和感は否めない。いや、それはたぶん、これから絶対襲ってくるであろう暗澹たる展開を覚悟しようと脳がこさえてる障壁なのかもしれないが。

 帰宅後、たいがいくたびれきってぐだぐだと寝そべりつつ、『キング・コング』を鑑賞。
 うーん。
 残念ながら、諸手を挙げて「スゲェ!」とか「面白い!」とは言えない。
 まず気になるのが、前半と後半、島から出るまでと以後のトーンが違いすぎること。物語の密度とか比重と言ってもいい。細かいエピソードを綴り合せてキャラを立て密に描き込んだ前半と、CGとエキストラでどっかんどっかん殴り書きするような後半とが、どうにも馴染まない。
 またそのキャラクターも、どうもしっくりこない。ヒロイン&ヒーローが今ひとつ平板だし、ひとり強烈な個性を見せるプロデューサーは話の途中でキャラが変わりすぎ、どうも親しめるものがない。ことそれについては「夢=カメラの破壊」のゆえと理解できなくもないけれど、それなら最後の台詞は似つかわしくなく、浮いてしまった感がある。おまけに、妙にきっちり書き込まれた船員集団はほとんどが一掃されて後、残った者は気配すら出てこない。おかげで後半のアクションは人間不在のそらぞらしさを免れず。船長ぐらいは後半にからませても良かったのじゃないか?
 ピーター・ジャクソン監督は畢生の作『ロード・オブ・ザ・リング』でファンを魅し去ったが、無制限三本勝負を許された直後の本作ではまだ「長編モード」から抜けきってないようだ。尺に合わせて物語を紡ぐも腕の見せ所、次回作ではうまいこと纏めてみせていただきたいな。


10月9日(月) 晴時々曇

 人の心は、さまざまなものに擬えられる。多くはミステリアスで美しいものとして、海や空を引くことが多いように思う。
 しかし、こと人それ自身を思うとき、僕がイメージするのは暗く深い森を纏った、険しい山だ。
 山は、人を喰う。
 例えば都会の中で見知らぬ場所迷い込んだとして、いかに風景がよそよそしくなっても、また何らかの危険を感じたとしても、それは何処までも人造物の中、理解できる風景だ。帰りの道筋を辿ることはできるだろう。
 だが原始そのままの山では違う。道を失った瞬間に、あらゆる物が帰還の途を阻む障害物となる。自分が異物であると他の存在から指さされる気がする。時間が経つにつれ不安は諦念に変わり、つのる孤独感にじわじわと侵食され、やがて自身をすら見失う……。
 『ザ・ポエット(マイクル・コナリー/著、古沢嘉通/訳、扶桑社)』上下巻を読み了えて想ったのは、まさにこの雰囲気、分け入ってしまった己の心の得体の知れなさ、恃み難さであった。
 サスペンスとしての胸どよめかす緊迫感や、幾分見え見えのミスディレクションの隙間を読むフーダニットの愉しみも、確かにある(もっとも後者は続巻『天使と罪の街(著訳とも同)』を先に読んでしまった時点で台無しになってるワケだが)。けれど、幼少時に背負った罪の意識あいまって己に信を置けず、しかし事実を追うあまりに他者にも心を許せない主人公の揺らぎこそが、物語を動かしてゆく読みどころだと思う。そして、そんな己に突き動かされるまま全てを明らかにしようとした挙句、彼の手に残るものはというと…。
 おのが心に踏み迷い、望んだ筈のものを得てなお満たされない想いが、彼が追った犯人にも、また共に捜査を進めたFBIの人々にも見て取れ、やるせなさを深く読み手に刻み付ける物語だった。惜しむらくは、テクノロジー関係を含めて既に古い物語になっていること。もっと早く読まなかった己の不明を恥じるのみ、である。
 え〜、この場合の己は、裏庭にスコップで作った小山程度の謎もありませんけれど。


10月11日(水) 雨のち曇

 かねてオーダーしていた6分の1スケール・エイリアン到着。
 箱でかっ!
 同じAVPから商品化したスカー・プレデターは既にゲットしており、その時も同じことを思ったもんだが…いやほんとにデカいわこれ。しかも、これまた前回同様、キラキラとメタルカラー。箱入りで保存する趣味はないから、ぶっちゃけ無駄なんだけどな〜。
 時間がないので開封は後回し、とりあえずざっと眺めたところ、1作目の不気味さグログロしさはなく、あっけらかんと「奇怪なイキモノ」してるなあという印象。まあ、あのヌメヌメ感をプラスチックで表現するのは難しいですけどね。とりあえず強酸性ヨダレだけは譲れないので、クリア系の素材で演出してやろうと思いますが。

 『シャーロック・ホームズ ベイカー街の幽霊』読了。怪力乱神を語らぬ名探偵に持ち込まれる、この世ならざるモノの関わりを匂わせる事件を集めたパスティーシュ・アンソロジー。さて、どう判じるねホームズさん?
 と、ジュブナイルを手にした子供時代の気分で読み始めたものの、残念ながら出来はいまひとつ。どうもこう、歯切れが悪い作品が多いのだ。後年、神秘主義に傾きながらも原作者は『サセックスの吸血鬼』でそこらをばっさり切って棄てるホームズを描いてるんだから、もっと果断な探偵を描いてもよかったのじゃなかろうか。
 唯一、印象深かったのは、かの「魔犬」を別視点で描いた1作。原作の登場人物に新たな設定を加え物語の多面化を試みるこうした類の作品はファンジンによく見られるものだけれど、さすがにプロの手になると出来がいい。物語と「彼」そして周囲の人々のその後を思い起こして、うっかり涙しそうになっちまったっす。
 とはいえ、ここんところパロディ・パスティーシュばかり読んでいて正典(キャノン)を離れること久しい身、実は記憶違いもしてるかも知れぬ。ここらで一度復習してみるかな。ついでに、また贋作の山にダイブするのも楽しそうだし。<以下無限ループ


10月18日(水) 晴

 『世界の紛争地ジョーク集』『世界反米ジョーク集(いずれも早坂隆/著、中央公論新社)』の2冊を読了。同シリーズの『世界の日本人ジョーク集』がベストセラー入りしたとて書店で一緒に平積みになっていたのを、単一人種ネタにはいまひとつ興味が無いのでこっちを買ってみたのだが…
 『世界の〜』は、なかなか。ジョークに現地情勢のコメントをほどよくあしらい、圧政の下でも人は笑う(というか笑わずにいられない)ことを面白くやがて哀しく語っている。というか、極限状況下のほうが辛辣なネタが出てくるのがヒトの常なのかも知れん、刑事物とか戦争物とか見ていると。こいつはいわば実証版ってコトですか。
 が。
 『世界反米〜』は「巨大国家アメリカの暗部を分析!」みたいなウンチク語りが大半を占めていて、正直鬱陶しい。しかもその内容たるや、ここ10年ほど本を読みニュースを見ている人間なら誰しも承知していそうなレベルでなんだかなぁと。看板どおりに冗句もて語ったほうが、あの国の病巣の深刻さを炙り出して見せたと思うな。


10月20日(金) 晴

 業務上、会社の窓口的なメールアカウントを受信している。で、Web上=世界に向けて大公開(笑)しているアカウントだから、スパムメールもどっさり来る。日々これをざくざくと削除しているのだが、ふとsubjectが日本語のものだけ、集めてみた。以下、到着順。

 お時間がある時で構いませんので
 コレだけは伝えないと…
 すぐ逢えると思ったのに…
 メールが届きましたか
 今日も一人だと思うと淋しくて…
 仕事してる?
 実は…
 もうわたし…
 もしかして…
 サプライズです!
 受賞確認
 勝手な望みかもしれませんが
 大変お待たせいたしました
 さっきの電話、貴方でしょうか、違いますか?
 そういうことなので変な気遣いはしなくて大丈夫
 メガネ2本目をプレゼント
 なんでしょうこの妙に台詞めいて繋がってしまう状況は。子供の頃にやった5W1Hゲームみたいですな。しかも、最後がメガネ2本ですか。確かに予備があれば嬉しい近眼乱視もちではありますが、ここまでの流れを見るとどんなブツが出てくるか不安に駆られます。勘弁してください。

 と、これらを削除したら、狙い澄ましたように次が来た。
 もう疲れた。
 希望ありましたら…
 希望の意味が違ってますね。なにかかなり身につまされる心地がいたします。でもメガネはご遠慮申し上げたく。


10月22日(日) 曇のち雨

 『ローマ人の物語 すべての道はローマに通ず(塩野七生/著、新潮社)』上下(27&28)巻を読了。今回、物語性はちょいと脇へ置き写真と図版を駆使してのインフラ論、建設建築の中でも道路と水道に関するそれをクローズアップして語っている。
 むっちゃ面白いです、これ。
 これまで「物語」の一部として「知っていた」ものの形を明確に示されることで、ローマという国がいかに高度に機能していたかを目の当たり見せられる心地がする。千年の余を閲して今に残る建築物というのは、歴史浅い土地に住む者には存在それだけで驚きだが、そのスケールを写真で眺め、データや構造図から機能を見るとかる〜く腰を抜かし平伏して拝みたくなる。小説家たる作者の「語り」が趣味に合わない人にも読ませるであろう、実に説得力の濃い巻であった。
 っつーか、キリスト教による暗黒時代の間にこの技術が無駄にならなければ、とっくにヒトは火星に降りてたんじゃないかと、妙なムカつきを覚えてしまうのだが。たぶんローマ全盛の頃の人が今の世界を見たら「ここは猿の惑星になっちまったのか!」と叫びそうだなと思った。素直に想像できたのは脳内ビジュアルがチャールトン・ヘストンだったせいかもしれないが。


10月23日(日) 晴

 ねこまと街へ。そろそろ冬ごもりの支度とて日用品その他を買い歩き、暗くなってから帰宅…ってまだ17時にもなってないんですが。日が短くなったことをしみじみ実感。
 風呂で疲れを取ってから、先日届いたエイリアンを開封。
 やわらかっ!
 手足は硬いプラスチックなのだけど、ボディの外側がラバー素材で、ブニョブニョかつしっとりヌメヌメした感触。うわあキモチワルくてイイ感じ。
 この生き物の特徴のひとつである二重顎(いや、デブのそれじゃなくて)がギミックとして組み込まれており、トリガーをスライドするとくわっと開いた牙の間から例の小さな口が突き出してくるのだが、ここでも口角部分のラバー素材が微妙に伸びてナマモノっぽさを見せている。いや〜、やっぱコレは片栗粉とか溶いて滴らせてみたいなあ。いや、葛粉のほうが雰囲気が出るか?<どこの料理教室やねん

 『ラヴクラフトの世界(スコット・デイヴィッド・アニオロフスキ/編、大瀧啓裕/訳)』を読む。読んで字の如し、かの作家が創造した神話体系に則り、かつは彼が暮らしあるいは舞台とした風景の中でという縛りのアンソロジー。
 さて出来はというと、前半、いまひとつ興をそそらぬ作品が並んでいてダルくなる。なんというかその、陰鬱な雰囲気を醸し出そうとするあまり、語り手も声を低くしすぎてよく聞き取れないという風情。が、そこで登場する「クラウチ・エンドの怪」を下敷きにした一作が実にいい。ちょいと設定に無理はあるけれど、冴えない探偵が事件に挑むディテクティヴ・ストーリーとしても面白く読める。続く作品群も彩り豊か、特に一幅の画を巡る物語は、優れた美術品であればそこに呪力が潜まなくても起こりうる恐怖としてじわじわと背筋に迫るものがあった。
 ただ、気になるのが訳者氏の「正確な発音表記」に拘るポリシー。テレヴィとかヴィニールとかのアイテムに限らず人名に至るまで、なにかこう、歯の間に何か挟まるようでスムーズに飲み下せない。巻末を飾る映画の紹介/批評において述べられているように慣用表記はお嫌いなのだろうけれど、既に日常の言葉になっているものに物語のリズムを乱してまで拘泥されずとも良いのではないだろうか。正確に発音してはいけないものを崇めるべき港町のルーツを持つ斯道のファンとして、ご一考をお願いしたいなあ。


翌月へ





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