店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2007.2





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2007  1



2月1日(木) 曇時々雪

 一昨日はドカ雪、昨日は雨ときて、今日は寒風吹く冬の一日。とんだ「たんぽぽ娘」ごっこである。おかげさまで路面はイイ感じにささくれ立ったまま氷結し、歩き難いことこのうえない。明日以降の筋肉痛が恐ろしいのう。
 それにしても、今年の積雪の少なさと滅茶苦茶な天候は異常だ。寒波は北極から流れてくる筈のものだから、それが減ってるってことはやはり地球温暖化の影響なのだろうな。温暖化すべてが人間によるものとは言えないけれど、このままだと僕らは自分の住む環境を破壊しつくして滅んでゆく、世にも奇体な生命体になりかねない。いつか化石として発見された時にそんな定義づけをされるのも嫌だなあ。

 暗澹たる気分にぴったりな『壜の中の手記(ジェラルド・カーシュ/著、西崎憲・他/訳、角川文庫)』読了。
 いや〜、角川がまあ、よくコレを出してくれたなあ。いや、ひところのハルキ商法から遠ざかって久しいのは知ってるのだけど、一度染み付いたイメージはそう容易に抜けない。ゼニに直結しないであろう、ほろ苦い皮肉に満ちたすぐれた思弁小説集を出してくれたことを素直に感謝したいのだけど。
 日本作家で言うなら乱歩と星新一を絶妙の配分でミックスしたような、生臭いくせに軽妙な独特の香味。劈頭を飾る「豚の島の女王」表題作「壜の中の手記」それに「骨のない人間」と「凍れる美女(今は亡き朝日ソノラマSF文庫では「冷凍の美少女」と訳されていたっけ)」は既読であったけれど、それでも引き込まれて素直に読み入ってしまう。
 一番気に入ったのは「時計収集家の王」。まさにビアスばりの諧謔が、無邪気な寓話のように語られる一編。描かれる技術が精彩に富んでいて、うっかり「見たいなあ」とか思わされたりする愉快でもあったな〜。


2月4日(日) 雪

 柚さんご来臨。先回携帯のカメラでは追いきれなかったからとデジカメを持ってこられ、ぼたんに迫る…間もなく逃げられる。なんだどうしたと家人が驚くほどの逃げっぷり、ターゲットは冷蔵庫の後にたてこもって出てこなくなってしまった。
 今朝までテリトリー内の人間に、踏むの蹴るの齧るのと狼藉の限りを尽くしていたくせに、これほど人見知りの内弁慶だったとは。
 呆れつつ、柚さんのお土産のプリンをいただきながら、これまたお持ちいただいたフィギュアスケートのDVDを鑑賞。もっとも、熱心なのは相方で、門外漢のこちとらは残念ながら途中でダレ始め、腹がくちくなったら日ごろの疲れも手伝ってぐーすか寝てしまったのだが。失礼まことに申し訳ない。次回もお土産よろしくお願いしま(相方からゲンコで突っ込み)

 『宗像教授異考録 第四集(星野之宣/著、小学館)』読了。今回劈頭を飾る「サルタヒコ計画」は、本シリーズと合流した『神南火』のエピソードと前巻を結んでのもの、追っかけファンとしてはちょいと嬉しい企画だった。また、サルタヒコとモアイを結び付けての解は久々におおと膝打たされるもの、流石です教授。
 他2編はそれに比べるといささかおとなしいが、最後の「黒塚」は鬼婆伝説と中世の魔女裁判を対照して、後者についてちょいと調べた身に興味深い。思えば黒猫も、本来は幸運のマスコットだった筈が、それを愛した「智恵者」の女性に飼われたために使い魔扱いされたのだよな。膝に乗った小さいソレにヒトの身勝手を切なく思いつつ、がじがじ食いつかれてみたりするのであった。

 ついでに伝奇つながりで、先日ようやく鑑賞できた『奇談』の感想など。
 諸星大二郎氏のシリーズ・キャラクター、稗田礼二郎を演じるに阿部寛というのは意外に悪くなかった。またシーンごとの絵面も、それなりにイメージに合っている。CGワークはいささかレベルが低いけれど、それでも「ぱらいそさ行くだぁ!」はそれらしく仕上がっていて、学生時代に酒の席で真似をするほど好きだった作品が実写になったことを素直に喜べるものだった。
 しかし、なんだって「神隠し」ネタを、しかも未消化な形で入れねばならなかったのか。それなら他に、もっと注力できる部分があった筈だ。たとえば神父による証拠隠滅など、なぜ削ってしまったのか。せっかく村人の反目の理由を明確にしたのに、その部分が薄くて「はなれ」の存在感がはっきりしないものにしたのも解せない。また「御教え」をオラショ風に流しつつ、聞き取り易い形でも繰り返して観客に謎解きをさせる形にしたほうが話に引き入れ易かったと思うのだが…。
 オリジナルに忠実に、付けたりをするなら深み厚みを増すように情景描写を重ねたほうが、諸星作品の映像化には良いと思う。ついては主役は同じで、ぜひ『海竜祭の夜』を映画化してほしいのだが、いかがだろうか?


2月15日(木) 雪のち雨

 ねこまとふたり深夜に帰宅し、まずは猫の仕掛けたトラップをチェック。具体的に言っちゃうとゲ■(微妙に伏字にならない)とかウンのつくやつとか、まあその類なんだが、引っかかるととにかく精神的ダメージがでかいのである。ゆえに部屋の明かりを点けながらそろそろと、あたかも市街戦中の兵士よろしく「A地点クリア」「そこの物陰に気をつけろ」「うわっ」「どうしたっ」「敵襲ですっ」とか言い合いながら自宅内パトロールをするワケだ。ちなみにトラップ敷設は敵ゲリラ勢力の老兵たち、急襲は新兵の仕事である。ふだんはほぼ無視し合ってるくせに、対人間では妙に足並みが揃うのは何故なんだ?某国と某国と某国みたいなもんですか?

 ちなみに最近の新兵は、こんな感じ。

今日の1枚_1

 角度を変えると、こう。

今日の1枚_2

 我が家に来て10日目の同じようにあられのない姿と見比べていただきたい。

今日の1枚_3

 なんつーかその、儚げな美少女が酔っ払いオヤジに育ちつつあるような印象なんですが。それが猫というものです、と言われるとそこまでではありますけどね。


2月25日(日) 晴

 正月このかたぶりの、完全なる休日。持ち帰り仕事無し、親族に召還されること無し、予定も無しの全き空白。やりたい事は日々溜まっているけれど、せっかくなので猟奇布団人間に変身し寝て曜日を決め込む。うーむ、いいなあ、時間の無駄遣いって!

 とか言いながら完全に無駄遣いできないのが貧乏性の哀しいところで、今日まで読んだ本の感想など。

 『血染めのエッグ・コージイ事件』および『切り裂かれたミンクコート事件』。
 ともにジェームズ・アンダースン著になる、英国のとあるカントリー・ハウス(田園地帯にあるお屋敷ね)を舞台にしたフーダニット系ミステリ。ちなみに版元は扶桑社。
 古典的ボードゲームの『名探偵(Clue)』を楽しんだクチなら、まず確実に「面白い!」とうなるに違いない。特に1作目は世界大戦の暗雲迫る時代を背景に、いまだ滅びざる貴族階級・優雅な政治交渉・暗躍する間諜(スパイじゃないのだ)・特命を帯びた調査官などなどがいささかコミカルに入り乱れる中、奇妙な死体ともっとおかしな証拠物件が出現する展開がツボだったらありゃしない。タイムテーブルをこさえて唸りつつ意外な名探偵の二転三転する謎解きに翻弄され、ついに真実に着地した時の興趣も深く、ワインなど開けて一献傾けたくなる風情。アレですな、波津彬子さんあたりにコミック化してもらったらすっげー合いそうです。
 ただ、どうも訳に引っ掛かりがある。前者の宇野利泰氏は、どうもキャラの言葉遣いに無頓着。あまりに大時代になるのもどうかと思うけど、仮にも爵位を持ってる人々の口の利きようが軽すぎないかと。で、後者の山本俊子氏はそのあたりなかなか気を配られているのだが、いかんせん、舞台の細部にはあまり目をやっておられない。たとえばブリッジのルールくらい図書館ででもちょいと調べられるだろうに手を抜くもんだから、スートを決める部分の会話が意味不明になってて、何やってるか分からんですよ。
 まあ、訳を語るならそもそも原典直訳のタイトルの語感の悪さはどうにかならないか。血染めってほど血だらけじゃないもんだから初訳では「血のついた」としてたらしいけど、これもなんだか語呂が悪い。こういう時は意訳になっても、もっとアッサリさっぱり記憶に残りやすいものにしたほうが…そう、それこそ訳者の腕の見せ所では?

 続いては『明智小五郎対金田一耕助(芦辺拓/著、創元文庫)』。『真説ルパン対ホームズ』で、あらまほしかりき名探偵と怪盗の競い立つところを描いてくれた作者の、今度は日本の名探偵揃い踏み。毛色の違いすぎる二人にあえて直接「推理合戦」めいた対峙をさせず、すれ違いながらに各々謎解きをさせるあたり、心憎い演出である。ことに、既に功成り名を挙げた明智がまだ駆け出しの後輩に向ける優しさと、来る時代の暗雲を憂う風情は、乱歩に捧げる愛そのものとして同好の身の胸に迫る。いや、まあ、小学生の時分に『蜘蛛男』のジュブナイル版読んで物足りず、大人版にうきうき読み耽った手合いの胸ですからご迷惑でしょうが。
 本作品集にはほかに「ブラウン神父」ものもあり、お家芸の「見えない○○」を描いて秀逸。今もなお、某国人たちに当てはまりそうな皮肉でもあるな。

 ここで正月放映の『悪魔が来たりて笛を吹く』を思い出し、データを掘り出して鑑賞。まあ、TVのスペシャルものだし、犬神家・八つ墓村・女王蜂と、どれもいまひとつ粗の隠せない演出&画面構成してたからどうかな〜と思ったのだが、これが意外とイケていた。主役の稲垣吾郎がだいぶ上手くなってきたのはもちろん、今回は他のキャストがいずれもいい味を出してるし、なおかつ演出が話の流れを切らないスムーズなもの。なにより、全編を彩る「悪魔」の旋律が実に実に素晴らしい。曲の謎を解くべく金田一がたどたどしく繰り返すメロディを組み込むことで時間の流れと推理の進展を併せ描き、ついに終幕で犯人が奏でるパーフェクトな演奏に引き込む展開は見事としか。
 がしかし、やはり尺が決まった中では各キャラの掘り下げが難しく、ミスディレクションが十分にできていない恨みがある。その点、TVシリーズは良かったな〜とか思っていたら、ふと気がついたらポチさせられてしまっていた。う〜む、悪魔じゃなくて物欲の女神様のご来臨ですか、まあどっちでも結果は同じですけどね(涙)


2月26日(月) 晴

 昨日に引き続き休日とて、今日は録画のストックを消化。まずはネット仲間や会社の同僚にとにかく好評な『仮面ライダー 電王』。
 …あっさり引き込まれて、溜まってた6本全部消化しちまいました。
 とことん不運な少年が異常事態に巻き込まれヒーロー役に・そこへ侵略者の中の異端児が・強気な美少女と謎めいた紳士・美人で天然ボケの姉・次々周囲で起こる事件などなど、ある意味お約束にまみれているのに、それらの要素がちっとも浮いてない。強引な展開の筈なのに無理なく話に引き込んでくれる演出・演技の妙。ことに芝居は、生身の役者とスーツアクター、それに声優の芝居が見事に噛み合って、始まったばかりの特撮番組とは思えないレベル。役者ついでに、キャスティングにまで小ネタ(たとえばデンライナーのオーナー氏が『世界の車窓から』のあの人だったりとか)が仕込んであるのも、いとうれし。
 昨日放送分ではオープニングに隠されていた意外な展開も端緒に着き、期待も倍増。いや〜、流石は小林『龍騎』靖子脚本。このまま終幕まで一人舞台でお願いします。ええ、一人ってとこが重要なんです。全部一人、出ずっぱり。夏休みとか禁止。あと映画版もお願いします。誰とは言わないけど割り込ませないでください。ついでに『龍騎』のお休み分と『ブレイド』と『響鬼』の後半と『カブト』をリライトしてもらえないでしょうか。<無茶
 まあ、日曜の朝「喝&あっぱれ」前に起きる理由ができて何よりである。せいぜい早起きして、ダダ寝体質を改善するとしよう。

 続いて午後の部は、仇や疎かに観たくないゆえに、まとまった時間の確保をひたすら待っていた『プロデューサーズ』。いわずと知れたメル・ブルックスにトニー賞をもたらした舞台作品の、映画版である。
 まず、品が無い。ネタは差別とシモ成分過多のおゲレツで登場人物は俗物(&キチぴー)ばかり、オヤジギャグさえ凍りつくようなくだらない駄洒落に満ち満ちている。
 にもかかわらず、素晴らしく面白いのだ、これが。
 そもそも、そういうファクターが全て正統派ミュージカルに仕立て上がっているという点に瞠目するばかり。アステアやロジャースの頃のパロディもたっぷり、斯ジャンルのファンには堪らないことだろう。またその(いささか泥臭くてクドい)流れに乗った演出上のサイテー・ファクターすべてが計算されつくしていて、マシンガンのように繰り出されるともう抵抗できなくなってしまう。どだいメル・ブルックス自身がプロデューサー業も手がけてる、しかも『エレファント・マン』なんて名作を!ってスタート地点から笑うしかないものな。もちろん御大いつもながらのヒットラーへのおちょくりには拍手喝采、かの狂人が不憫になるほどひ〜ひ〜笑わせてもらった。
 劇場公開時に「エンドクレジットが終わっても席を立つな」と言われていたオチも堪能。爺さん元気だなあと嬉しく拝見した。ところで監督、『珍説世界史』の続きはまだですか?(笑)


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