店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2007.10


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10月6日(土) 晴

 戻ってきた鮭が市街地を流れる川でホッチャレてる傍らに、胴長着用の釣り人とカモメが並んで佇んでいたりする季節がやってきた。ビジーの只中で出社するこちとらには関わりようもないが、空を映して青い川面に展開するにはなかなかシュールな絵面で面白いところある。
 そのまま街中を自転車で通り抜けたら、今度はそぞろ散り初めた枯葉に混じって細かい羽根が舞っていた。おやこのへんに満を持して降臨すべくジークでも潜んでおるんかなと見回したら、傍らの街灯の上でカラスが食事中だった。どう見ても鳩食ってますありがとうございます。ワイルド都市札幌ばんざい。

 そんなこんなで本(特に長編)はあまり読めていないのだが、ここのところで印象に残ったのは以下3冊ほど。
 『壁男(諸星大二郎/著、双葉社)』
 第一部は「現代フォークロア」とでも言うべき奇妙話。洋の東西を問わずある、何も無い壁から視線を感じてふと振り返ると…という恐怖譚から始まる表題作を始め、ヒトの領域の外側に踏み込む奇妙な物語が展開する。がしかしそこを端緒に描かれるのはヒトが謎や神秘、果ては聖性といったものを己の側に引き寄せ引き降ろし、結局は手垢のついたものにして放り出す過程でもあって、『ブラック・マジック・ウーマン』に登場する近所の衆のほほえましいほどの無神経っぷりこそがヒトの本質であり生き方なんじゃないかと思えてきたりするけれど。
 後半の「遠い国から」シリーズは雑誌や再録本で読んでいたものだけれど、まとめて目にすると新たな感興がある。悲惨な話や残酷な話もあるのに妙に淡々としてて、なおかつその無残に身を置けない局外者の孤愁という不可思議な味わいはそこらにあるものではないなあ。作者のセンスに改めて脱帽。
 『超-1 怪コレクション 黄昏の章(加藤一/編、竹書房)』
 『超 怖い話』シリーズでお馴染みの書き手さんがコンテストから編んだ、すてきに怖い話集。個人的に好みとしている「こんなことがあったけどオチはねえよ?」の「投げっぱなし怪談」が多くて好ましい。しかも無駄に飾らない怪談向きの語り口が多くて、さすがは加藤氏分かってらっしゃると嬉しい。どれがネタとか野暮なことは思わず、うひうひうふうふ愉しみましょうご同輩。部屋で独りこのテを読んでに〜んまり笑ってる人も怖い気がしますけど、まあそこもスルーってことで。
 『よつばと! 7(あずまきよひこ/著、メディアワークス)』
 子供の思いがけないアクションと、それに本気で乗っかって遊ぶ大人たちという図がコンスタントに楽しくなってきたなあという印象。ただ、スタートからどうも「読み物」としての面白みが乏しいなと思っていたんだが、これって実は上手に描けてるせいかもしれん。身近に子供がいたことがあると、このぐらいのトンデモ言動には耐性が着いちゃうんだよな。あと子供と大真面目に遊びほうけるダメな大人集団とな(笑)


10月8日(月) 晴

 久々のマトモな休みとあって、昼までぐっすり…の筈が、ラジオ体操の時間にチーズに起こされる。貴様のスタンプカードを作った覚えはないぞと呟きつつ、寝ぼけ眼でトイレに行ったら、閉め切らなかったドアの隙間から鉤爪の生えた真っ黒な肢がぶん回されてさらに眠気を覚ましてくれたときたもんだ。もう、やめろよなぼたん

 とこう猫相手にぶつくさ言っても仕方ないので、ここしばらく試行錯誤していた革への刻印の、実験結果を確認。ご覧のとおり、なかなか細密に上手くできていた。費用対効果を考えるとコレはかなり画期的だと思う。ネットで検索した限りでは、木彫で作っておられる方に迫れるのではないかな、と。

今日の1枚

 ただ、肝心な本道つまりレザークラフトはっつーと、これが遅々として進んでいない。そもそも発端が買ってきたバッグが気に入らずにリフォームを始めたのが発端だったのだが、やってみたら面白くなって次は携帯ケースを作ろうと計画、だが途上でカードケースつきの財布の設計を始めてしまい、さらにシザーバッグなんかもいいかなとうろうろしてる間に材料と用具がどんどこ増殖、はっと技術を全く磨いてないことに気がつき、端材を使って工具ケースを作ることにして、どうせならオリジナルの刻印を入れたいと思いついたが運の尽きで約1ヶ月(ああ息切れする)、今ようやっとここへ辿り着いたワケなので。いつもながらの寄り道気質は全く改善されてない、つか年とともに開き直りが上手になってる気がするなあ。気のせいじゃないと思いますが。

 さて、今朝『シャイニング』まがいの行動でこちとらの眠気を飛ばしてくれたぼたんだが、最近めっきり箱がお気に入りである。

今日の1枚

 安部公房の世界を目指しているのか、はたまたソリッド・スネークに憧れているのか。とにかく小型の段ボール箱がやってくると、一度は納まってみずにいられないらしい。爪とぎなどはしないから良いのだが、はっと気付くと箱にこもってこちらを窺っている。そして寝る。特に、今まさにこれから棄てようと思っている箱の中で。

今日の1枚

 これは、やはり新手のヒト苛めなのだろうか。叩き起こして箱を潰せない下僕属性のヒト2匹は寝顔を見て逡巡するうち引き込まれてぐーすか寝てしまうのだが、もしかしてその間に何かやらかしてるのだろうか。こう、背中のファスナー引き開けて怪しいイキモノが出てくるとかして。


10月11日(木) 曇時々晴

 今年最初の雪虫を見た。
 ほとんど感じられないような微風のなかを、ふわふわと流され漂っていく白い点。
 儚い姿が消える頃、本物の雪がやって来る。
 と、もの想うのも悪くはないのだが、近いうちにこいつらが大量発生することを考えると非常に鬱陶しい思いのほうが先に立つ。刺したり咬んだりする虫ではないといえ、大き目のアブラムシサイズのやつがわらわらと空中に漂ってるのはとにかく邪魔。口に入る目に入る耳に入る、チャリ乗りにとってはその確率がさらに倍増ときて恨めしいシロモノだ。
 これから雪までの短い期間とはいえ、なにか対策せねばならんな。いっそフルフェイスのメットでも被って乗るか?それともゴーグルにマスクにほっかむり?
 …どっかのイマジンに間違えられかねないかも、ではあるが。

 さて、ペルシャ猫のチーズが我が家にやって来て、昨日でちょうど18年となった。濃い目のグレーだった毛並みもほとんど白く(一部黄ばみ)かつ毛玉だらけになり、胃腸の働きが弱まって糞詰まりを頻発するようになったものの、食欲はまったく衰えない…どころか老いてますます盛んである。朝メシに小さい缶を半分ずつ与えてるのに、気付けばぼたんの残した分までべろっと平らげ、さらにお代わりを要求して「あ"〜」とか鳴いている。
 とはいえ年寄りのこと、迫る寒さは辛かろうとヒーターをセットしてやったのだが、ヤツは見事にこれをスルー、寒いテーブルの下にある座布団(元は椅子用クッションだったが強奪された)におさまっている。フェルト状の毛玉を大量生産してるのはこのためか?櫛をあてそれを切ろうとする人間に食いつくのも?
 羨むべきなのかもしれないが、むかっ腹の立つことだ。つか猫下僕の性を恨むしかないのだけどね。ふうぅ。


10月18日(木) 晴

 ちょいと体調を崩したので、仕事を休んで終日ゴロゴロ。有給どころか溜まりに溜まった休日出社の消化にもなりゃしないのが情けないと思いつつ、普通に生きてりゃこういう世代のお話であるところの『20世紀少年』から『21世紀少年(浦沢直樹/著、小学館)』までを一気読み。全24冊、いささか覚悟というか気負いをもって挑んだのだが、意外とスムーズに読み下せた。そうか、間が延び延びになってなければ面白かったんだなこれ。
 少年時代の些細な出来事が重なり、かつその年齢の持つ悪意をそのままに育った人物が一種の異能を持つ者だったことで世界がとんでもない方向へ転がって行く話とは認識していた。一種キング作品と似た空気もあるなあ、と。が、全篇を読み返して事を細かく知るうち、これがキャラクターたちの回想録やシンプルなフーダニットではないばかりか、いわゆる「いい者」であるべく戦った主人公たちが蒔いた種の歪さ、子供たちの底知れない残酷さが浮き彫りになってくるのを見て愕然とする。いわばラスボスとして登場した人物に最後まで顔が無いのも当然、彼らが「殺して」いたのだから。
 積み重ねられた膨大な死も世界を相手の壮大なまでのペテンも、一気にそこへ収束していく終幕は、妙な言い方だが「不愉快なカタルシス」に満ち充ちている。『MONSTER』は直截に恐怖の姿を描き出したが、こちらは真相が全て明らかになった際の抜けるような青空にさえ気分が悪くなるような違和感に読み手を放り込んでくれる。
 繰り返しになるが、発刊がスムーズに行なわれていなかったが返すがえすも惜しまれる。この衝撃を楽しめないまま物語を離れてしまった読み手は少なくないと思うのだ。心当たりの向きには、ぜひ再読をお勧めしたい。ええと、会社を休んで時間を取って。<違


10月20日(土) 雨

 『終決者たち(M・コナリー/著、古沢嘉通/訳、講談社)』読了。ハリー・ボッシュ・シリーズの最新作は意外なほどストレートな警察小説であり、かつ奇妙なほど爽快な読み物にもなっている。
 探偵家業というブランクを経て警察へ復帰し、埋もれた殺人事件を手がけることになったボッシュ。おりしも17年前の殺人に新たな証拠が浮上し、それを追ううち人種差別絡みのスキャンダルの疑いが浮上する。当時の捜査は歪曲されたのか?そしてそれを仕組んだのは、つとにボッシュと対峙してきたあの男なのか?見え隠れに加えられる圧力と妨害、そして容疑者の上に事件が…と、退屈知らずに読ませるところは流石としか。
 で、奇妙というのは、ボッシュ・シリーズには有り得ないほどさっぱりきっぱりと諸々の事件が片付いていくのだ。メインの事件の始末も宿敵?との軋轢も、終幕に至って快刀乱麻、すぱっと解決されている。まあ、被害者遺族についての悲痛なエピローグはあるものの、これまでのシリーズで主人公とともに味わってきた後味の悪さに比べればまだ、本懐を果たしているだけ一種救いさえ感じるくらいだ。
 これは、変だ。なにか、怪しい。
 そもそも市警内部の権力闘争が背後に蠢いてるあたりで、今の上司が素晴らしい人物でありミスター・Aが放逐されるべき悪人という図式は座りが悪い。絶対この後に何かある、ここまでボッシュと暗いトンネルを抜けてきたコチトラにはそう疑わされるのだ。ご本人は素直に飲み込んでるようだが、そんな姿を眺めている読み手は次に咽喉に詰まるものが来るのじゃないかと心配するばかりである。
 気をつけろよハリー。とりあえず、背中をどやす準備はしといてやるからな。

 という内容はさておき、この物語の根幹を成している「殺人に時効なし」「迷宮入り事件も新たな証拠があれば再捜査」「警察官も市井から復職可能」などなどの要素は、わが国の司法においてもぜひ見習って欲しいものだ。人員不足というなら路上が警官まみれになるほど増員して、特に最初の1項目だけでも確立させて欲しい。人の権利の第一である生存権を奪うやつに自由を謳歌する権利は無いと、つとに信じる身としては。


10月26日(金) 晴のち曇

 空中に漂う雪虫をマトリックス避けしながら出社。周囲に同じような動きをしている人多数、何も知らずに映像で見たら町中が発狂したように見えるんだろうかと思うとうすら笑いをおさえきれず、これまたヤバげなファクターを追加するのであった。悪いが恋のシーズンは早めに終わってくれ、虫君たち。

 『石のささやき(トマス・H・クック/著、 村松潔/訳、文春文庫)』読了。
 相変わらず無残な出来事を思わせぶりにじりじりと小出しにするクック節全開のフラストレーション小説。『夏草の記憶』あたりでも話の半ばに至らずに「もー分かった何も言うな黙れ口を閉じろ声を出すなてめぇが殺ったんだなそうだろそうなんだろあァ?」とトニーたけざき漫画ばりに血管ブチ切れさせて叫びそうになったもんだが、今回はそれに輪をかけてキツい。なにせ「狂気」を主要ファクターにしているものだから、登場人物ひとり一人の言動の裏に何か潜んでいそうで何一つ素直に読めないのだ。もうイライラするのなんのって。
 だからといって投げ出すこともさせないヒキの強さも相変わらずで、やはり最後まで読んでしまった。で、終幕の一言が、さらに暗澹とした可能性を思わせるのに気付いて欝度倍増。その少し前に引用された、出典を記されていない唯一の詩が、これから続く長い夜を思わせるのもあいまって見事なまでにダークである。いや、流石というべきなんでしょうなあ。テクは賞賛しつつ、二度と読みたくないって作家も珍しいやね。



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