店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2007.12







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12月5日(水) 晴

 マイケル・スレイドという作家が好きだ。とにかく「ひっでぇ(北海道弁。酷い・激しい・凄い・大きい等などの状態に対する驚き呆れの表現)」としか言いようの無いものを書く。もとい、それしか書かない。ネタに関する薀蓄をみっしり詰め込んだ舞台にとんでもない妄想に取り憑かれた殺人鬼が跳梁跋扈し、思いつく限りの残虐かつ奇天烈な方法で人をいたぶり殺しまくり、必死で追う当局との間に死闘を繰り広げるのがお約束。警察小説なのだが、実のところ等身大の怪獣もののような気がしないでもない。
 で、最新刊『メフィストの牢獄(夏来健次/訳、文春文庫)』は、そのお約束をまたもや外さない一編。そもそも腰巻の「カナダのディーヴァー」という煽り文句を見て、ディーヴァーが気の毒じゃん?としか思えなかったんだが、読み了えた印象としては…ええと、そのままですなこれ。これ書いた奴はディーヴァーに謝るべきじゃないだろうか。
 ただ残念ながら今回、警察小説として面白くない。カナダ騎馬警察隊のチームワーク(組織内の軋轢含む)がシリーズの見所なのに、今回は別組織の女性捜査官とディクラーク警視正の動きが最小限描かれているのみ、他は技術者が少々噛んだくらいか。あとはひたすら悪役サイドの話に終始していて、しかもこれが唐突に現実味乏しいスケールアップをしやがる。過去のシリーズのようなスピード感も無い。要はバランスを欠いているのだ。
 お得意の薀蓄は今回も幅広く濃度高く、それ単体で面白い読み物となっているし、訳者氏の絶妙な意訳(当て字)も物語へ入りやすくしてくれているというのに、実に残念。シリーズはまだまだ続くようだから、一応期待をもってみるとしようか。ただペンネームを共有するユニットの構成が今回同様らしいから、あまり望みはもてないかも知れないけれど。


12月9日(日) 晴

 『愛は売るもの (ジル・チャーチル/著、戸田早紀/訳、創元推理文庫)』読了。
 遺産の受け取り条件として広大な屋敷に住むことになった没落ブルジョワ兄妹が、またもや殺人事件に巻き込まれるグレイス&フェイヴァー・シリーズ4作目。奇妙な条件で屋敷を借りたがる変装した男が現れた時点でもう事件は必然なのだが、怪しい人物盛りだくさんで決め手に欠けるまま引いてゆく展開はお約束で少々退屈かもしれない。あと、フーダニットを楽しみたい向きには、真犯人への情報が乏しいかな。
 が、この作品の読みどころはミステリ部分のみではなく、大恐慌時代から二次戦へと傾き続ける時代のアメリカの一地方という舞台の描写にもあると思う。一時戦帰還兵士のデモ、フーヴァーとルーズヴェルトの選挙戦、その傍らで進行していた当時最大のダム建設という重苦しい背景と、その中で生き方を模索する人々の姿は歴史物としても読み応えがある。また今回、兄妹が代用教員を引き受けたことでまた少し世間を広げてゆく姿は感情移入すれば目新しく、またある程度年齢を重ねてしまった身には懐かしく微笑ましい。次回はまた別の職業にトライするらしいので、ともに新たな体験ツアーに出られることを期待したい。


12月17日(木) 晴

 ここしばらくのハードワークのせいか、体調を崩して終日寝床の住人に。よってもって溜まったコミック一気読み。

 『夢源氏剣祭文 第1集(小池一夫/著、皇なつき/画、小池書院)』
 えええええ?この原作者にこの絵師って?と書店で目玉を足元に落とし、一緒に拾い上げて買ってきた。絵師殿には同人誌時代からぞっこん惚れこんでいたけれど、原作者氏は濃ゆ〜い劇画タッチと対でしか想起できないのだよね。あまりといえばあまりな異色カップリング、食中りも覚悟の上でページを開いたのだが…。
 これが意外な大当たり。御伽草子に材を取った物語は人の世の無常を摂り込んで重く切なく、ぼそり訥弁な語り口を精緻な画がやさしく補う。原典とのまるっきりな違いもまた興趣深く、大人のための絵本として上作である。

 『PLUTO 5―鉄腕アトム「地上最大のロボット」より(浦沢直樹/著、手塚治虫/原作、小学館)』
 大きな動きがあってまたゆるやかに、しかしじわじわと謎の正体が不安をはらんで迫る1巻。話全体の流れもさりながら、随所に原作と比較して物思わせるシーンがあるのがオールドファンに嬉しい。ことに後半で描かれる天馬博士のエピソードがなんとも切ないというか、原作より説得力があるかも。オリジナルでは自作のロボットに向かって「育たないから息子じゃない!」とネジの飛んだことを叫んだ理不尽ぶりに当時子供の目から見て愕然としたもんだったけど、こんな形で死者の似姿に耐えられなくなったのなら納得できる。この先「二百万馬力」のくだりに絡んでくるのだろうが、さてどうなるか。

 『空中飲茶飯店 上・下(かまたきみこ/著、朝日新聞社)』
 環境悪化が拡大した未来、人類は二酸化炭素の排出量を抑えた証の「茶」に至上の価値を置くようになった。運び手たちは翼を背に命懸けでそれを運び、鑑定士たちが高値をつけたそれが政治を動かす道具になる。しかしその背後には隠された犠牲と陰謀が…。  しみじみ、世界を作るのが上手い人だなぁと思う。ことさら言葉を尽くさずに、さらりと描き出された背景に暮らす人物たちが何とも「活きて」いる。物語の終わり方もきれいにまとまって、実に結構なお手前。『KATANA』のシリーズがイマイチなのは、ひょっとしたら「現実世界」の縛りがキツいのかな、とか拝察したりしております。

 他に『ベルセルク』とか『鉄腕バーディー』とか鈴木志保氏の作品数点とかがすがす読んだのだが、さて感想を書くには体力が足りない。いずれ改めてということで、おやすみなさい。


12月23日(日) 晴

 毎年恒例、大家さんちの子供たちのニセサンタとしてねこまと二人、街へ出る。もう10数年続けてる行事なワケだが、子供たちも大きくなってサンタは信じてないし、何より好みの分かれるお年頃、プレゼント選びが難しい。とりあえずシルバー雑貨製作キットとかミニラジコンヘリとか、どう見てもこちとらが遊びたいものを購入して帰宅。自分が嬉しいことを他人にするっつーことで勘弁だ!
 ちなみにねこまへは本人の希望によりダコタ社の「ANGLER II」を用意してある。釣をするワケでもないのにこのチョイスはどうかという気もするが、まあ趣味のことを言うとこちらもいろいろ痛いところがあるので口を噤んでおくか。

 夜、チャンネルザッピングしていたTV画面に白と黒のもふもふしたイキモノが映った。動物の子供を扱った特番の、ちょうどパンダの部分だったのだが、なんつーか、しみじみ卑怯な生き物ですなコレは。単に毛色の変わった熊のくせに、どうしてこうカワイイ仕草ができるのか。きっと人類を萌え殺そうと、異星人が遺伝子操作してったに違いない。
 と、かなり無理やりな疑いの目を双子パンダに注いでいたら、かれら用に開発された粉ミルクが登場。そりゃそうだよな、飼育員が母パンダと交代で育ててるのだもの、必須アイテムに違いない。がしかし、何が驚いたってそのブランド「ワンラック」って…我が家の猫どももお世話になってるあの森永の、ですか?
 なんでもこのミルクを使い始めてから、本場臥龍のセンターでも赤ん坊の生存率が100%になったそうな。思えば川で拾ったチビ猫たちの食いつきっつか吸いつきもココのベビー用が一番だったっけ。人間の鼻にも美味しそうな匂いがして、腹の減ってる時に優先するのが切なかったもんです。
 しかしだ、TVに映った缶の裏に注意書きとして「開封後はパンダの手の届かない所に保管してください」って表記があったような。どうせ動物園でしか飼育されないイキモノ用、調餌だって離れた場所で行われるのが当然なのにそんな表記は必要ですかね。それとも何ですか、いずれご家庭用で飼育可能なミニパンダとか開発する予定なんですか。で、そいつが棚の上のミルク缶にうーんとか背伸びして…
 ぶばあっ!
 …鼻血がしぶくほど危険なビジュアルを想像してしまった。マジでそんなもの目にしたら、出血多量で死にかねない。もはやこれをもって森永乳業は宇宙人の手先に決定である。<冤罪にもほどがあり

 『メールオーダーはできません (レスリー・メイヤー/著、高田恵子/訳、創元推理文庫)』読了。
 アメリカの田舎町の主婦が探偵役の、最近急増のコージー・ミステリ。海外ドラマのように活写されるシーンが読ませる1作である。訳者氏の腕も大いに寄与してだが、例えばクリスマス前の慌しい家の中に、端末が並ぶヒロインの職場に、たまさか赴く羽目になるロワー・サイドに、そして逆光に影の浮かぶハイライト・シーンに、TV画面越しに見入っている心地がする。印象的なキャラクターも多く、今後の話を広げるネタには事欠くまい。
 ただ残念ながらフーダニット・ホワイダニットなど謎解きとしてはさっぱり欲求を満たしてくれない。なんというか、そこだけソープ・オペラになってる感。せっかく話に引き込まれていたのに、どうにも座りの悪い後味になってしまった。シリーズを読み続けるかどうかは、次の1作次第というところだな。


12月29日(土) 雨

 仕事納めの朝、携帯へのメール着信で目覚める。会社の同僚、若いMさんの母上が亡くなったとの知らせだった。この夏からお加減を悪くし入院されていたが昨日容態が急変。彼女はPCの電源さえそのままに病院へ走り付き添っていたのだけれど、薬石効無く日付の変わる頃永眠されたという。
 とりあえずは出社、同僚たちと連絡をとりあって供花や弔問の打合せをし、適当な時間にいったん帰宅して服装を整えて夕方からのお通夜に間に合わせる。
 年を重ねるごとにこういう手際だけはよくなるものだ。しかし血縁者に乏しいゆえか元々情なしなのか、Mさんの思いを察するに足りず、かける言葉を探しあぐねるままに帰宅。葬儀における他人などエキストラのようなもの、台詞を探すには及ばず黙って背景になっておればよいのだろうけれど。


12月30日(日) 晴

 じわじわと迫り来る来年に備えて篭城すべく、ねこまと食料の買出しに。米だの蕎麦だの猫缶だの餅だの重量級ばかりなので結構しんどい。くたびれてしまい、大掃除はヒキコモリ中になんとかすべぇと無期延期。午後は寝たきりで過ごした。

 『鋼の錬金術師 18(荒川弘/著、スクウェア・エニックス)』読了。ホムンクルスの最後の1体の正体が明らかになったり敵が無体な要求を突きつけてきたりと話の展開も退屈させないものがあるが、何をおいても「子供」である主人公たちの着実に成長した言動が見事な1巻である。
 ことに父母の仇に対するウィンリィの言葉とその後の行動は、あっぱれ女傑の片鱗を見せてたのもしい。筋の通りっぷりと度胸は既に兄弟を越えているかもしれないな。そして敵兵に己の素性を晒して説得、ついに変心させてしまうアルもまた良し。かつての彼だったら手を拱いているうち、眼前で彼らが死ぬのを見ている羽目になったかもしれない。しかしこの2兵士の名前って…えーと、太鼓叩きは要りませんか作者様。
 ところでオマケのカルタは描き下ろしゼロの即席ものでイマイチいただけない。作者へのご祝儀のつもりで選んだ当方としては2度開くことさえなかろうが、年少のファンにはつれない仕打ちだと思う。トランプほどではなくていいから、もそっと手をかけてやってくださいや。


12月31日(月) 晴

 一年最後の日、揃って師走の街へ買い物に。いわゆるおせち料理を求めようと思ったのだが、今年はどうも量的に見合うものに出会えない。さすがに四十の坂を越えると、見応えのあるレベルは食いきれないのだよな。仕方なく贈答コーナーの蜜柑とか普段求めないような値段の肉とか買いあさって帰宅。うーん、中身だけ見ると日ごろのスーパーの買い物と変わらないやん。お正月を迎撃するのにこんなんでいいのかな。

 帰宅後、人酔いしたのでぐだぐだと読書三昧。

 『大奥 第3巻(よしながふみ/著、白泉社)』
 未曾有の混乱に立ち向かうべく強制的に集められた者たちが、やがて自覚をもってことに当たり歴史を作り始める姿を描き出すIF時代劇、その転換期。様々な身分立場の群像の中、ことに少女の身で将軍の重責に耐え、やがて己の意思と智慧をもってそれに当たってゆく家光の靭さ美しさは感動的。また、周囲の変化に戸惑い憤りつつ、後を託して去ってゆく春日の局の姿に、ふと現実の戦国から江戸へ移る時代の人を思わせられるのもまた思いを深くさせられる。
 現実といえば、この作品を描くに当たって作者氏が往時の資料をどれほど読み込まれているのか、その深さ広さにも瞠目させられる。食物服飾小道具全般、職業ごとの出で立ちや言葉、それら全てがしかも「逆転社会」に符合するよう微妙に変化をつけられて描きこまれているのだ。そこらのナンチャッテ時代劇を撮ってるTV屋さんたちには、ぜひ爪の垢を入手して伏し拝んで煎じ飲むべしと申し上げたい。

 『ルードヴィッヒ革命 4(由貴香織里/著、白泉社)』
 タンビーゴスロリビジュアル系ちょいエログロスチャラカすっとこグリム童話の最終回。予想どおりの流れではあったものの、ソレを遥かに越えるスケールで登場した御方にはちょいとぶっ飛ばされた。いや〜、ご帰国に際して国民の反応がアレってのはすげぇですねえ。こちとらがその立場なら同じことをしそう、つかダッシュで逃げる用意がありますが。
 ってなお楽しみ部分はさておき、童話のアレンジ方法や結末のひねり具合は何度かおおと膝打たされるものがあって好ましいシリーズだったと思う。いずれまた(お母様業がひと段落したら)再開を期待したい。ユーリズミックスのプロモから抜けてきたような濃い顔の王様も、ご無事なら再登場できますように(笑)


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