店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2008.3







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3月5日(水) 晴

 今月に入ってからずっと続いていた微熱が、今日になって急上昇。蓄積したのか利子がついたのかなどとぐるぐる回る頭で考えつつ、会社を休んで爆睡。午後になって妙にすっきりと目覚めたので、積読から2冊ばかり引いてみた。

 『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day(乙一・荒木飛呂彦/著、集英社)』
 作者については世上…というかマスコミで絶賛されていたデビュー作をうっかり読んで「なんじゃこりゃ陳腐な」と呆れた記憶しか無いのだが、なにせ『ジョジョ』シリーズでは第四部が一番好きな隠れファン、しばし買うたやめたを踊ってから手にした一件。さのみ期待していなかったからか、スピンオフ的同人小説としてそこそこ楽しめた。
 もっとも、同好の士に勧められるかというと、そうでもない。オビで謳われているような物語ではない、単に舞台を杜王町に求めキャラクターを借りてきてオリジナルストーリーを飾っているだけの部分が多すぎる。謎めいた敵と対峙し必死に知恵を巡らせてそれを解き明かす緊迫感や、弱者(或いは限定された能力の主)が才知を駆使し逆境を脱出するカタルシスといった原作のツボが全く無いのもどうか。アマチュアがオフセット本で作ったら絶賛したかも、というレベルか。
 とはいえ、「あの」アラキ画が目に浮かぶ描写もそこそこあって作者の読み込みっぷりが思われ、ほほえましい思いもある。また同人誌の醍醐味というべきや、他者の視点から描かれたキャラクターたちを違うメディアで読むのもまた愉しい。個人的には由花子嬢をもっと登場させてほしかったが…って、原作でもバランスクラッシャーになりかねない強烈っぷりだったから無理ですな、はい。

 『3月のライオン 1(羽海野チカ/著、白泉社)』
 『ハチクロ』で一世を風靡した作者の、青年誌での新境地。可愛らしい絵柄と余白での遊びは変わらぬものの、話は前とは桁違いにずっしりと重苦しい。人間関係を構築し損ねた、或いは失った、いわば傷の群像のような物語は開始早々に息が詰まるほど。しかし、主人公を支え或いは巻き込んでいく三姉妹、病苦を押してライバルを張ってくる友人(?)などのファクターをみるに、これから救済の得られる物語なのではなかろうか。いや、そうであってくださいお願い。3月はライオンの如く訪れて子羊のように去るのがお約束ですものな。

 ところで将棋の試合、例えばその最高峰たる竜王戦など、賞金の出所はどこなんだろう。スポンサーがついてるとはとんと聞かないが、チェスがスポーツなんだから将棋もその扱いにしていいんじゃなかろうか。着物の背中とか手持ちの扇子にばばーんと企業ロゴなんか入れると面白いのにな。ナイキとかアディダス…は流石に違和感があるけれど、証券会社とかなら良いんでないか?いや待てよ、頭脳をもって戦うのだからここはやはり人の作った頭脳のメーカーに頑張ってもらいたい。羽生名人の背中にどーんと林檎マークなんてどうっすか?<頭脳は普通に使え


3月9日(日) 晴

 昨日、ヒロツさんちのチャットでTAKO'Sさんから広川太一郎氏の訃報を聞いた。3月3日、68歳だったという。世上のニュースではJ・ボンド役の吹き替えとばかり言われているけど、子供の頃に最初に聞いたスノーク(ムーミン)とか『ヤング・フランケンシュタイン』や『大陸横断超特急』でのジーン・ワイルダーとかの「な〜んちゃっていってみたりきてみたりなんかして〜?このこのぉ、ちょんちょん!」なノリが忘れられない。でも変だな、他に何か思い出しそうなんだけど…と、風邪の残るふやけ脳を振り絞ったら。
 ストレイカー司令官だったよ orz
 『謎の円盤UFO』は中学生の後半にSFに目覚めたきっかけの作品だったというのに、どうして思い出せなかったのかな。あと『600万ドルの男』も広川氏だった。海外TVドラマ大好きな子供にとっては、まさにヒーロー(の声)だったのだなあ。
 返すがえすも、お世話になりました、広川さん。感謝の印に『「空飛ぶモンティ・パイソン」“日本語吹替復活”DVD BOX』を求めて形見としたく…って、結局ソッチへ行くのか僕は!


3月14日(金) 曇時々雨

 今日までの通勤の友だった『ラヴクラフト全集 別巻(H・P・ラヴクラフト他/著、大瀧啓裕/訳、創元文庫)』上下を読了。斯ジャンルの開祖と他作家の合作集、いずれも禍々しい闇の匂いが未読既読ひっくるめてたまらない。
 訳者氏入魂のふるぶるしい言葉遣いも、また主義として何が何でもと通される外来語の発音表記も、ことこのジャンルこの系統だと却って味わい深く思えるから面白い。翻訳事始の頃の黄変色した書物を古本屋の棚の隅で見つけて、うっかり禁じられた世界へ足を踏み入れたような感興さえある。リアルCOC、懐かしさついでに我が家の魔窟と化した書庫で、既刊の捜索ごっこでもしてみようか。まあ正気度以上に体力値がヤバそうですが。


3月16日(日) 曇

 相方ねこまが風邪で寝ているので、こちらもおとなしく寝て曜日。せめて読書内容は明るく軽くと、家事に奔走しつつ殺人事件に首を突っ込む主婦が主役の『トウシューズはピンクだけ(レスリー・メイヤー/著、高田恵子/訳、創元推理文庫)』を読む。
 前作で通販会社のオペレータのパートをしていたヒロインは、4人目を妊娠して職を退き、専業主婦として日を送っている。が、暇かというとそんな筈は無く、娘2人のバレエ発表会に向けて準備に追われる日々。そんな中、失踪と殺人の2つの事件が発生し…。
 女の身主婦の身まして現在妊娠中、それがよせばいいのに首を突っ込み巻き込まれ、うっかりミスから危険に遭うべくして遭ってしまうという、うわぁとんでもねー…な話ではある。また場面がぴょんぴょん飛ぶし視点もころころ変わるし人名は大量に出てくるしで、このテの翻訳モノは苦手という人にはたぶんマイナス要因だらけじゃあんめぇか。
 しかし物語そのものの構成は、謎解きも含めてなかなか読ませるものになっている。事件の根底にある家庭内の犯罪は当節流行りものとはいえ看過できぬことだし、また主婦の日常やなにより出産という人生の一大事を、体験しない者が思い量るに良い本かも。いや、前者については誰も体験すべきじゃないんですけども。


3月17日(月) 曇

 先ごろネットで頼んでおいた水槽が届いた。相方が楽天のポイントを使って発注してくれ、こちらがさらにコンビニのポイントで払ったので実質2千円程度で手に入ったという儲けモノである。ポイントサービスの類は日ごろあまり熱心にチェックしてなかったのだけど、こんなに得できるなら、もちっといろいろ調べてみようかな。

 ちなみに水槽はコトブキ工芸社のダックスC60。高さ230mm奥行200mmの小型タイプながら、610mmの幅は流石に存在感がある。しかし容量は26Lと標準サイズの45cmよりも小さいので、機器類は現行の30cmに使っているものをそのまま活かすことにした。まだ風邪でダウン中のねこまを起こさないよう、ごそごそと作業にとりかかる。
 コリドラス・ジュリー、ピグミーコリドラス、オトシンクルス、ボララス・マキュラータ、ヤマトヌマエビという小ファミリーをプラ水槽に入れて退避、水草もバケツに移して剪定&コケ取り、水と砂をこれまた別容器に移していよいよ引越し…というところでお約束のようにぼたんが猫の手介入してくれたが、なんとか振り切って2時間ほどで終了。底面積は倍近くなり、育ちすぎていた水草も余裕をもって葉を広げているのが心地よさげである。
 が、こうなってみると、生体が少なくてどうにも淋しい。
 これは水槽持ちの宿業というべきであろう。「減らす」というのは常に至難の業で、水草が増えたといっては新しい水槽を買い、そこに入れる生体が欲しいといって新たな品種に手を出し、ふと気付くとタンクの数が増え床がたわんでいたりするのだ。
 ちなみに猫飼いとか本読みとかクラフト系の趣味人も同様だったりする。ええ、全部身をもって知ってますともさ!

 『骨の城 (ハヤカワ・ミステリ文庫 エ 3-8)(アーロン・エルキンズ (著), 嵯峨 静江 (翻訳) 、ハヤカワ文庫)』
 一度はトーンダウンの挙句に不時着かと思われたスケルトン探偵シリーズ、先回再浮上し今回もまた安定した飛行を続けている。善き哉善き哉。
 『暗い森』の名作っぷりに及ぶものではないけれど(つかアレを2回も書けたなら、悪魔に魂売ってる可能性がある)ショッキングな発端、美しい情景描写や奇妙なキャラクター群、専門知識を適度に散らした証拠の分析などなどの要素がフェアに手がかりをおかれたフーダニットに織り込まれているのは十分に愉しい。ことに2組の脇役コンビは、スピンオフ作品の主役を張ってもいいような魅力があった。短編はあまりものしていない作者だけど、田舎町の事件簿的な作品にしてくれたりしねぇべかな〜。
 謎解きが始まった時点で「おお!」と膝を打たされる爽快感も心地よく、また主題のひとつであるいわゆる「自然保護」についても考えさせられることのある良作だった。ただ、校正ミスらしい「てにをは」レベルの間違いが数箇所で目に付いたのは残念。最近の翻訳物にはありがちなのだけど、咽喉にひっかかった小骨のように気になるもの、ぜひぜひご留意願いたい。


3月20日(木) 曇時々晴

 ここのところミステリに当たりが多く、ほくほくと積読の山を崩していたのだが、ここへきてさらなる上作に出くわした。
 『狡猾なる死神よ(サラ・スチュアート・テイラー/著、野口百合子/訳、創元推理文庫)』。
 まず主題が墓石というのが、個人的にツボ。日本の墓地にも碁盤とか駒とかサッカーボール、果てはモアイやデ●ズニーキャラなど個性的なものは多いけれど、欧米の古い墓石ときたらそれどころではない。まさにモニュメントとしか言いようのないゴージャスな彫刻の集合体からシンプルそのものに見せて警句のような墓碑銘で読み手をニヤつかせるものまで、実に幅広く興趣尽きないものがある。
 そんな墓石の研究者であるヒロインのもとに持ち込まれた写真の墓は乙女と死神という古典的な象徴ながら、その造形があまりにも時代とかけ離れたもの。特異な環境と墓の主に興味を抱いた彼女だったが、まさにその墓の傍らに死体が転がって…という展開のヒキも上々。墓碑のデザインと添えられた詩から、プロセルピナ(ペルセフォネー)、オフィーリア、そしてシャロットの姫君へとめぐるイメージも、妖しく不吉でかつ美しい。ことに姫君についてはミステリファンなら『鏡は横にひび割れて』で記憶に焼き付けられているもの、どうして魅せられずにいらりょうか。
 ヒロイン自身の過去に根付く闇や動不審な登場人物群にも事欠かず、散りばめられたそれらのファクターが頭をいい具合にかき回してくれ、やがてかちりかちりとかみ合って現れる驚愕の事実は、一種不思議な爽快感と微笑ましさをもたらす。また終幕、荒れ狂う吹雪と凍てつく流れを背景に現れる真相とその結末の皮肉と切なさも味わい深い。
 訳者氏にはこれが初めてのおめもじながら、表題や作中の謎にまつわる言葉の選び方が好ましく、非常に愉しく読ませていただいた。本作はシリーズ物とのこと、ぜひ次回もよろしくお願いしたい。

 ところで個人的には土葬して上にドングリでも植樹してほしいクチの僕だが、現代社会ではなかなか難しいものらしい。仕方ないから御影石のたれぱんだでも用意しようか、墓碑銘は「このしたで たれています」ということで。祝日の今日、ほとんどを布団の中で過ごした身には非常に相応しいと思うのだが如何。


3月21日(金) 曇時々晴

 出社途上で『鋼の錬金術師 19(荒川弘/著、スクウェア・エニックス )』をゲット。昼休み、わき目もふらず一気読み。
 まず感動したのは…カバーの見返し。いやいやいや、だってさあ、これは本読みならば誰しも思うんじゃないか?おお、魂の友が!と、全国でどれほどの読者が思ったやら。提案元が神だろうが悪魔だろうが、はたまた『こちらニッポン』とか『ひとめあなたに…』みたいな状況でも、迷わずあそこへ走りますわ。産業がいっさい停止したら農業・漁業にも悪くない土地だし、最高の滅亡待ちが出来るな〜…と、うっかり妄想を膨らませちまいましたよ。ええ、自分が消える側になることは露さら考えてませんとも。
 さて本編。
 ようやく物語の全てが見えてきて、いわば風呂敷を広げきった状態。ここからどう畳むかが作者の真価の見せ所だろうけれど、今のところ不安感はまるで無し。なにせついに明らかになった「父(かつての名の由来はクロウリーのアレかな)」と「お父様」の正体を描くさえ、十二分な重さをもちつつ現在からの脱線を最小限にみっしりと凝縮して読ませる巧みなのだ。どうして後者だけ老けていくとか、現在進行中の魔方陣計画の行き先とか、どんなふうに説き明かしてくれるか楽しみで楽しみで。
 あと主人公とその周囲の人々の動向はもちろんだが、個人的には某イタリア映画なネーミングの合成獣コンビが気になるところ。先代グリードの配下の連中以来、「人外」へ追いやられた人々に肩入れしたくなってるんだよな。今回の巻末で再び内通していたようだが、次巻の立ち位置からすると、アレはトラップなのかな。おりしも発見された練成陣がアレなので、いよいよ強烈な反撃を始めるのじゃないかと期待している。


3月24日(月) 曇

 ねこまと、動物園へ。ヤツは風邪が治ったとたん妙に元気いっぱいなのだが、こちとらは日ごろの運動不足を遺憾なく発揮し、半分も周らないうちに足がガタついてきた。これからの季節、チャリンコ通勤に復帰するためにリハビリに精を出さねばならんなぁ。

 さて本日の目的は、まず入り口すぐの科学館で開かれている「2008 YEAR OF THE FROG 円山スネークアート展」。カエル好き(カエラー)としては見ておかなくてはと訪れた。作品はほとんどが一般市民の趣味の産物だが、中にはかなりハイレベルでツボを突かれるものもあり、いささか物欲地雷原であったかも。
 カエル保護のための募金箱にいくばくかを投じ、amphibian arkのロゴのバッヂをいただいた。むやみと可愛いので、いずれマグネットにでも作り変えて部屋の飾りとしよう。つかこの柄でTシャツとか作ってくれませんか、着る用と飾る用と予備に買いますが。

 カエルの神と物欲の神に取り憑かれてしばし踊り狂った後は、順路をうろうろと奥へ。近づくシーズンインに備えて、園内ではあちこちで工事が行われている。とはいえ超がつくほどメジャーになった旭山と違い、市営で予算も限られている中ちょっとずつ手を加えているのが見えてなんだかいじらしい。特にメインの熱帯動物園と昆虫・爬虫類館はそろそろ完全リニューアルすべき頃合に思われるので、なんとか頑張って遣り繰りしていただきたいなあ。
 そんな中でピカピカなのはチンパンジー館。鉄骨とロープのジャングルジム状の設備の中でのびのび暮らすファミリーに、2歳前後の遊び盛りが2頭と今月の17日に生まれたばかりの赤ん坊がいるのだ、眺めて面白くないワケがない。また遊び盛りの片方は実の母親を亡くして「選ばれた人((c)動物のお医者さん)」であるところの男性のお母さんに育てられているので、そちらの授乳タイムも楽しい。
 また冬季営業中ということで、大型動物はほとんど屋内にいるのだが、ライオンやトラをガラス1枚向こうに見られるこの状況は却って見応えがある。ことに今はライオンにも子供が2頭いるので、じゃれ合う姿が可愛い…というか迫力満点。なにせサイズは中型犬、足だけはラブラドル・レトリヴァー並み、生肉に食らいつく牙も鋭い「ちびっこ」達である。転げまわる毛玉のような姿がこんなスケールだとは、TVの中では分からないものな。動物園という施設自体への賛否両論あるのは分かるけれど、リアルな姿を目の当たりにすることは重要っす。いや、この年齢になって言うことじゃないけどさ。



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