店主酔言

書籍・映画・その他もろもろ日記

2008.4



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4月3日(木) 曇のち雨

 寝ぼけ眼で開いた新聞で、石井桃子さんの訃報を知る。まだ一人歩きも出来ぬ時分に『ちいさなうさこちゃん(ミッフィーじゃないぞ)』シリーズで本読みになった身には一面識も無くとも恩師のような方、御年101歳は大往生ではあろうが別れを惜しむばかりである。本当にありがとうございました。あの小さなハードカバーは手ずれがしまくってますが、今なお本の形をしております。ちなみに『クマのプーさん/プー横丁にたった家』は表紙が分離し花布がむき出しになってますけど。ってどんだけ読んだんだわし。
 とか言いつつウィキペディアで業績を辿っていたら、『ひゃくまんびきのねこ』もこの方の労作であったのだな。
 以前にも書いたが、猫が単体でも増殖することを非常に分かりやすく記した、猫飼いには貴重な警告の書だ。もっとも大概の猫飼い、いや猫下僕はオチに首をひねるだけで、気がついたら「ひゃくまんびき」の食い物になってたりするのだけれども。

 さて、『うさこちゃん』をスタートに本好きから書痴へと順調に育った子供が本日読み終えたのは、やっぱり本にまつわる一作。『災いの古書』ハードボイルドな古書店主クリフ・ジェーンウェイのシリーズ3作目である。
 今回の事件は、主人公の恋人の幼馴染にかけられた殺人の嫌疑をめぐるもの。彼女たちの間に横たわる溝の複雑さもあり、事件に関わる前から暗澹たる空気が漂う。また例によって人間のクズを引き寄せてるとしか思えないジェーンウェイのアタリの悪さ、おまけに無闇とそいつらを挑発してトラブルに着火しまくる行動のおかげで危機感もたっぷり。そこへ膨大な数のサイン本というおよそ有り得ないものが、胡散臭さ紛々たるフレーバーを加えた古書業界のカラクリも覗かせてくる。
 そして終幕、パズルのピースが組み合ったとき、スタインベックの語るおぞましい生き物、人間の両親から生まれた怪物がその正体を現す。このくだりの怖さはミステリの謎解きというよりはホラー、いっそスティーヴン・キングの世界にも似て総毛立たされるものがあった。サービス精神旺盛な幕の内ミステリといえよう、ただ後味はものごっつー悪いですけれど。


4月12日(土) 雨のち曇

 仕事がデスマーチ一歩前程度のビジーにはまり込み、加えてチャリンコ通勤の季節を迎えてなかなか読書の時間が取れない。かくて夜毎睡魔と闘いつつ、積読の山に挑んでいるわけだが、本日またその一角を切り崩してみた。モノは『歌う砂―グラント警部最後の事件(ジョセフィン・テイ/著、塩野佐和子/訳、論創社)』。えー、単行本なんでもとより通勤の友には不向きですが。
 アームチェア・ディテクティブの名作『時の娘』の著者による、グラント警部シリーズ最終作。主人公はストレスによる障害で休職中だが、列車の個室で死んでいた若者の残した詩の一節に惹かれるまま単独調査に踏み込みんでゆくというもの。風光明媚かつ荒々しい気候で名高い英国の一地方を彷徨う彼は、その過程で心癒されつつやがて意外な真相に辿り着く…。
 わりとありふれた話じゃないか?とお思いでしょうが、あいや待たれいご同輩。これは半世紀以上前に書かれた話なのですぞ。現代にもってきてもそのまま通ることに驚かれぃ。結末はいささか大時代とはいえ、それゆえ却ってかの詩にこめられた夢の大きさを想わせられるものがある。
 上記のストーリーだけでなく、後半で語られる「虚栄心」はまさに今の犯罪シーンを彩る人格障害の類と見え、なんとも寒い思いをさせてくれる。誠にもっておそるべし。
 訳文はすっきりと読みやすい。ただ難を言うなら、主人公の一人称「オレ」は少々軽すぎではないかと思うのだが。この出版社は他にもテイ作品を上梓しているが訳者がばらばらのようなので、読み比べてみるのも悪くないかな。いや、まずは『時の娘』へ回帰すべきか?


4月14日(月) 晴

 ねこまと自転車屋さんへサイクリング。昨年末にメンテできなかったので本格シーズンイン前に頼み、かつTSマーク付帯保険の手続きをお願いするためだ。自転車事故多発の昨今、加害者になる可能性も考えると些かなりと備えあるに越したことはあるまい。
 …とは思うのだけれど、サイクリングロードを走っているのにしょーもない歩行者が多くて愕然とさせられる。「歩行者は右側通行」の掲示が至るところにあっても左側を(つまり走ってくる自転車に背を向け)歩く者、道の真ん中をフラフラするもの、身幅ほどのリュックを背負って道に立ちふさがるもの、ストレッチのつもりであろうか「ふしぎなおどり」でこっちのMPを削ろうとするモノ。しかもほとんどがジジババで、認識反射いずれにおいても能力低下著しく思われる物件ときた。起伏のある道で加速する場所もあるのだから、衰えた脳でもちったぁ危険性を考えて欲しい。つか歩きたいなら一般道の歩道が併走してるんだが?
 途中、北へ帰る途上のキレンジャクたちやシジュウカラを見かけて少し和んだものの、ゴール直前で近隣の私学に通う若者たちの集団が道を完全に塞いでいて、通り魔になりたい気持ちが急加速。どんなアホ大学だろうと高校経由で入ってるんだろう、字ぐらい読め!いや、それよか、ジジババよりも反応速度が鈍いってどういうことだ?そんなことだと三輪車にも轢かれるぞ?

 とか沸騰していたものの、帰り着く頃にはくたびれきってて怒りを反芻する余裕が無くなっていたのは良かったのか悪かったのか。とりあえず風呂をつかい、途上で求めた甘味と茶で一服。やれやれどっこいしょ…と呟いてジジババ臭さに愕然としつつ、スーファミを起動して黄金のコンドルを求め迷宮へ。レトロと言ってもらおうか!


4月24日(木) 曇時々雨

 先週末にどんどこ上昇した気温はついに20℃を突破、日曜には花という花がいちどきに咲き出した。もちろん桜も例外ではなく、街なかの並木も満開で、おりしも外出した我々は口を開けて眺める仕儀と相成った。月曜には観測史上最速の開花宣言も出て、このまま一気に夏か?と思われたのだが。
 今日は一転して雨と風が吹き荒れ、しまいにゃ雪までチラリと混じる惨状。それが日没頃に急に収まったなと思ったら、今度は霧が降りてきた。夜更けて帰るころには、電柱2本先が見えない程に濃くなる有様。
 この状況で、アレをやらないわけには行くまい。
 ねこまとの待ち合わせ場所の手前で、ジャケットの前のファスナーを閉めフードを被り、腕組みをして袖を身体に巻きつける。で、不規則に上体を揺らしつつ、ちょいと内股気味にギクシャクと接近。はい、2で最初に出てきたヤツです。ちょうどジャケットがベージュだったので、なかなかイイ感じになったかなと。
 もちろんテキは手にした傘を構えて応戦してくれました。微妙に腰が引けているのがポイント高いっす。
 …40も半ばに迫るいい年齢をして、何をやっているのかなどと聞かないように。本人たちにもよく分かっていません。ついでにそのまま3の真エンディングの歌まで熱唱しましたが後悔しておりませんともさ!

 帰宅後、ますますホラー風味高まる窓外をときおり眺めつつ『幽霊狩人カーナッキの事件簿(ウィリアム・ホープ・ホジスン/著、夏来健次/訳、創元文庫)』を読了。そのかみ図書館通いの学生時代にドラキュラ叢書(国書刊行会)で読んだものだが、このほど文庫を見かけたので懐かしく手に取った。コッテコテの古典のため今となってはいささかケッタイ感漂い、珍妙なトンデモ科学や冗長ぎみなその解説に飽きる部分もあるけれど、ラヴクラフトに先立つコズミック・ホラーとしての世界観は非常に興趣深いものがある。また異界に潜む存在にあえて豚をもってきてるあたりも妙に生々しく怖かったり。『異次元を覗く家』でも使われていたモチーフだが、現実の豚の凶悪な面を見たことがあると、敵意をもったあの生き物の与える威圧感が活写されているなぁと寒々しく実感させられるのだ。いや、子豚とかミニブタは可愛いですけどね。
 怪現象とみえて実は…という肩すかしオチを交えているあたりもミステリ風味で面白い。というか、実際の「心霊現象」なんてほぼ全てがこんなものだろうなと思うと、当たりがあるだけマシなのかもしれないな。ほぼ全てが命がけになってるけれど(笑)


4月29日(火) 曇

 相方が仕事で、ひとり過ごす休日。猫どももおとなしいので、ちょいとエセ陶芸などやってみることにした。
 かねて用意のオーブン陶土をビニールシートの上で捏ね、さてお題は猫の皿。ずいぶん前にカルカン(だっけ)についてきたドライフード用のがことのほか使い勝手が良く予備を探していたのだが、元がプラスチックなんで早晩劣化しちまうことを考え、同じものを求めるよりは他の食器のように瀬戸物に置き換えてしまいたいな、と考えた次第。
 しかし形状がかなり独特で、手をつけてから難度の高さに手をこまねく。べろーんと横長に広がった火山のような形なので、高さと頂上の窪みとをキレイに出そうと思うと普通に作るのは無理がある。仕方がないので、オリジナルのプラ皿にラップをかけ、3mm程の厚さの板状にした粘土を貼り付けてみた。
 …どうも、エッジが甘いというかダレた形になるというか。
 まあ考えてみるまでもなく、上から被せると厚みの分だけゆるい形になっちまうんだよね。ゾウを呑んだウワバミみたいに。しかしこれを解消しようと思うと、石膏で抜き型をこさえるとかって大袈裟な話になる。いや、遠回りに工程を重ねるのはどっちかっつーと好むところであるけれど、たかが猫の皿にそれってどうなのよという気もしないではない。そもそも手軽さを気に入ってこの素材を選んだのじゃなかったか?
 結局、現状に甘んじて乾燥させてみることにした。不満な出来になったらその時ってことで。

 『エマ 10巻(森薫/著、エンターブレイン)』を読む。もちろん購入日に一気読みしてたのだが、今日は改めて熟読。いやはや、感無量ですなあ。
 この1冊だけ手にした人にはピンとこない作品もあるかも知れないが、ずっと付き合ってきた読者にはますます物語の奥行きが深まる短編群。笑わされつつふとしみじみしてしまう4コマ。そして全巻の幕を引く、いわばグランドフィナーレ的な最終エピソード。
 これまで重ねた思い入れがずずーんと迫ってきて「ああ、良かったねえ」と、キャラクターたちの肩を叩き、握手し、あるいはただ目くばせだけ交わして現代へ帰還する時間旅行者の気分に浸ることしばし、ついでに紅茶にブランデーたらして祝杯代わりにしちまいました。おめでとう、そしてありがとう!
 しかし版元さん、毎度のことですがこのアンケート葉書はほんとに回収する気あるんですか?ファンとして愛に熱がこもれば篭るほど、これは手放せないと思うんですが。まあ売り上げだけで人気のほどは知れると思うので、これは付録としていただいても良いのでしょうが。あ、次作についてはお任せで握ってください。<何を

 就寝前、ここしばらくナイトキャップがてらに遊んでいた『風来のシレン』の調子が悪くなる。症状としては画面が揺れる、明るさが落ちる、最終的に消えるというもの。妙だな変だなと電源ON・OFF、カセット抜き差し&端子部への息吹きかけとお約束なマジナイを試してみたが、思わしくない。さすがに寄る年波の本体が壊れたかといささか憂鬱になったところで、常にクライマックス状態のぼたんが猫にあるまじき足音とともに駆け抜けた。
 おや?治った?
 試みにケーブルをひねくり回してみると、ばっちり症状が再現するではないか。これはすごい。リセットする猫は世に数多あるが、不具合を究明したのはお前が初めてじゃないかぼたん
 …とか親馬鹿モードに突入しかけてふと思ったのだが、この故障の原因もコイツではないのだろうか。そういえばよく猫オモチャと一緒に転がりまわってケーブルに巻きついているような。チビの頃から人間を虐待するスキルが異様に高いヤツなので、油断させようというテかも知れぬ。なまねこなまねこ。とりあえずケーブルは買い替えだ。


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